著者
市野 隆雄 栗谷 さと子 楠目 晴花 平尾 章 長野 祐介
出版者
国際環境研究協会
雑誌
地球環境 (ISSN:1342226X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.71-78, 2014

温暖化によって,高山植物は将来的に消失の危機にさらされるだろうといわれている。一方,高山植物だけでなく,その下方に位置する山岳植物も「高地型」と「低地型」に分化し,それぞれが独自の遺伝的固有性をもつ「保全すべき単位」である可能性がある。そこで筆者らは,高地型と低地型の間で遺伝的分化があるか,また高地型と低地型の生殖隔離に関与する花形質が生態的に分化しているかどうかについて,3種の草本植物を対象に検討した。本稿では,これらの個別研究の成果をまとめて紹介する。サラシナショウマは,遺伝的にも生態的にも標高間で3 つの送粉型に分化していることが明らかになった。ヤマホタルブクロおよびウツボグサでは,標高が上がるにつれて花サイズがおおむね小型化していたが,この小型化は標高そのものに影響されたものではなく,分布する送粉マルハナバチ類のサイズに適応した生態的分化の結果であることがわかった。これらの結果から,温暖化にあたって保全すべきなのは,これまでひとくくりにされていた山岳植物「種」とは限らず,より細かく分化した「生態型」である可能性が示唆された。