著者
根上 泰子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.53-59, 2013-06-01 (Released:2018-05-04)
参考文献数
7

野生動物の感染症は,野生動物そのものに影響を及ぼすもの,人,家畜に感染するものなど様々であるが,近年,環境改変などの人為的要因による感染症の発生が問題となっている。野生動物の死亡原因の究明は,時に生態系の異変の指標,また人,家畜の感染のセンチネルとして,感染症の早期発見および対応,ひいては生物多様性の保全にも寄与すると考える。環境省では,平成20年から野鳥での高病原性鳥インフルエンザウイルスの全国サーベイランスを,都道府県,大学,研究機関などとの連携のもと実施し,関係省庁,関係機関,近隣諸外国との情報共有にも努めている。このように特定の疾病に関する危機管理対応は整いつつあるものの,野生鳥獣の死因を幅広く究明する制度は整っておらず,新たな異変や感染症の早期発見の機能は十分とはいえない。本稿では,日本での野生動物の感染症対応の現状と今後の課題について,死亡原因の究明の観点から海外の事例も参照しながら考える材料を提供したい。