著者
桂 [キ]一 宮田 善雄
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大學學術報告. 農學 (ISSN:00757373)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.51-56, 1966-09-01
被引用文献数
1

Phytophthora capsiciの遊走子の走流性に関する研究を行なった。ガラス細管の先端より脱イオン水を静かに流出させる装置をつくり, 遊走子けんだく液中に挿入して観察したところ, 適当な流速のもとで, 管口部に顕著な遊走子の集泳が起こった。これは明らかに遊走子が走流性を示したことを意味する。暗視野照明と照度計を組み合わせた測定法によりとらえた遊走子の集泳状態は, さきに報告した走電性や走化性の場合とほぼ同様の様相を呈し, 流速が早い場合は特有の阻止帯の形成もみられた。遊走子が集泳を起こす位置は, 管口から流出した水の流速が, 遊走子の游泳速度と等しくなる地点とよく一致し, したがって, 管内流速がほぼ130μ/secの場合, 管口直前に顕著な集泳を起こすことがわかった。このことから, 流水の刺激は遊走子の方向性にのみ関与し, 運動速度にはほとんど影響を及ぼさないものと考える。遊走子が刺激として感ずる流速の最低限界は, 明らかになしえなかったが, きわめてわずかな水の流れをも感知するようである。本病菌遊走子が走流性を有することは, 降雨時に寄主植物体の上部から下部へ生じた雨水の流れに抗して, 遊走子が植物体に到達し, あるいは, それを泳ぎ上る可能性を推察させ, 植物疾病の伝播における1つの新たな機構を提起するように思われる。