著者
桂 文子
出版者
龍谷大学
雑誌
龍谷紀要 (ISSN:02890917)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.65-76, 2006-09

ロバート・ブラウニングの『赤い木綿のナイトキャップの国、あるいは、土と塔』はフランスのノルマンディー地方のサン・トーバンで、1870年4月に実際にあった事件を扱っている。この作品に限ってはブラウニング特有の文学形式である劇的独白ではなく、作者ブラウニング自身が語り手となっている。事実しか語らない、と断りつつ、事件に対する自分の解釈を率直に織り込んでいる。彼の関心は事実の虚構化にあるというよりも、この事件の持つ意味を考察し、このような事件を招来した社会的、文化的背景に向けられていた、と考えられる。彼はこの事件をどう解釈し、この作品によって何を表現しようとしたのか、を検討する。