著者
桂 晶子 萩原 潤 山田 嘉明
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.221-229, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
30

目的 災害時の保健情報をはじめ健康に関わる情報を住民へ適切に伝えることは公衆衛生行政の役割の一つである。本研究は,東日本大震災および平成27年9月関東・東北豪雨の両者を経験した地域に住む住民の日常における情報収集行動を把握すること,その要因を被災経験,生活背景等から検討し防災リテラシー向上の示唆を得ることを目的とした。方法 大震災,関東・東北豪雨の両者を経験した2つの地域の全1,065世帯を対象に,2017年6月に質問紙による横断調査を行った。回答は1世帯1人とし,回答者362人(回答率34.0%)のうち属性の明らかな336人を分析対象とした。日常における情報収集行動を把握し,災害時の活用が報告されている情報収集手段3変数を従属変数として二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 対象者は男性179人(53.3%),女性157人(46.7%),平均年齢(標準偏差)は65.5(10.6)歳であった。対象全体の半数以上が利用する情報収集手段は,利用率が高い順に「テレビ」「新聞」「会話や口づて」「ラジオ」「地域広報誌」であった。友人・知人との「会話や口づて」「ラジオ」「インターネットサービス」の3変数の要因を検討した結果,「会話や口づて」の利用は4変数が有意となり,性別が「女性」(オッズ比(OR),1.82;95%信頼区間(CI);1.05-3.15),同居家族「あり」(OR, 2.46;95%CI, 1.06-5.72),住民の助け合いが「期待できる」(OR, 2.31;95%CI, 1.27-4.21),台風・大雨の怖さが「強くなった」(OR, 1.82;95%CI, 1.04-3.18)において正の関連が示された。「ラジオ」の利用は,同居家族「あり」(OR, 3.22;95%CI, 1.35-7.67),関東・東北豪雨の被害「あり」(OR, 1.73;95%CI, 1.01-2.97)と正の関連が示された。「インターネットサービス」は「年齢」と負の関連(OR, 0.91;95%CI, 0.88-0.94),住民の助け合いが「期待できる」と正の関連が示された(OR, 2.66;95%CI, 1.19-5.93)。結論 自然災害による被害や恐怖心はその後の情報収集行動に影響すること,また,住民の助け合いの意識と情報収集行動との関連を活かした平時における防災リテラシー向上への取り組みの可能性が示唆された。