著者
桐谷 理
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.95-98, 2005-03-25 (Released:2009-07-23)
参考文献数
13

Millikan (1984) は, 生物の器官, 行動, 言語使用など様々な機能担体に備わる規範を, 自然選択の観点から統一的に捉える, 「直接固有機能 (direct properfunction) 」論を提出している (Millikan 1993, chapters 1 and 2, 2002も参照).直接固有機能論は固有名の使用にも適用されるが (1984, p.75), Millikanはこの理論とKripke (1980) の固有名の指示の因果説とを比較してはいない (Millikan 1993, 2000, 2004も参照).本稿では, Kripkeの固有名の指示の因果説が, 直接固有機能の定義の諸要件をすべて含意していることを論証する.それにより, Kripkeの因果説が, 固有名の使用に備わる規範を, 自然選択の観点から捉えていることを示す.まず, 第1節では, Millikanによる直接固有機能の定義の込み入った部分を明らかにしておく.そして, 第2節で, Kripkeの固有名の指示の因果説が, 直接固有機能の定義の諸要件をすべて含意していることを論証する.それにより, Kripkeの因果説が, 自然選択の観点から, 固有名の使用連鎖内の過去の使用と同じ対象を指示するという, 固有名の使用に備わる規範を捉えていることを示す.