著者
桑原 里紗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

近年頻発している地震の被害を教訓に,被災した建築物の復旧に要する費用などの修復性能,および被災した建築物に残存する耐震性能(残存耐震性能)をともに満足する合理的な設計手法の確立が重要な課題となっている。その中で,地震応答終了時の残留変位は構造物の耐震性能を把握する際の重要な指標の一つである。残留変位は,地震動の位相特性や構造物の非線形性に依存するため,従来は非線形地震応答解析により直接計算するか,あるいはあらかじめ異なる周期ごとに残留変位を求める残留変位スペクトルを用いるなどして推定するしかなかった。研究代表者は,地震動の位相特性のうちどのような因子が残留変位に影響を与えるのかについて解析的な検討を行い,また通常の弾性応答スペクトルに加えて,最大応答経験後にそれと符号を異にする最大値をプロットした応答スペクトルを新たに定義することにより,弾性応答スペクトルを用いた簡便な手法による残留変位の推定についての研究を進めている。本年度に実施した残留変位の推定における検討結果より,(1)正負最大ピーク(第1,第2ピーク)だけでなく,後続の第3ピークを用いた推定により格段の精度向上がみられること,また(2)既往の応答スペクトル法に,第2,第3ピークスペクトルが適応可能なこと,よって(3)PCなどを用いた解析によらなければ推定できなかった残留変位について,第2,第3ピークスペクトルと建物の耐力性能曲線を用いて,最大応答変位のみならず残留変位も推定可能であること,が示された。加えて,弾性応答スペクトルを用いた残留変位の推定手法を構造設計へ応用・展開させるべく,時刻歴応答解析同様の物理的意味を付与させた,新たなる簡便な残留変位推定方法の開発に取り組んでいる。