著者
辰巳 佐和子 桑原 頌治 瀬川 博子 宮本 賢一
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.135-140, 2021 (Released:2021-04-06)
参考文献数
30

血中リン濃度は,主に腸管吸収,骨代謝(骨形成・吸収),腎臓における排泄と再吸収,肝臓,筋肉などの軟組織への組織移行により維持される。血中リン濃度は日内リズムを形成し,その形成機序は早朝空腹時のリン濃度を規定する重要な要因と考えられている。慢性腎臓病(CKD)では非常に早期よりリン代謝異常が生じている。CKDや維持透析患者の死亡リスクは,早朝空腹時の血中リン濃度と正の相関を示すことが知られている。最近,Nampt(nicotinamide phosphoribosyl transferase)/NAD(nicotinamide adenine dinucleotide)系が,ナトリウム依存性リン輸送体であるNaPi-IIa(Npt2a),NaPi-IIc(Npt2c),NaPi-IIb(Npt2b)の発現量を調節することで,血中リン濃度の日内リズム形成に関わることが明らかにされた。実際に,Namptヘテロ欠損マウスでは,血中リン濃度の日内リズムは消失する。また肝臓特異的Nampt欠損マウスでは,異常な日内リズム形成を示すことから,Nampt/NAD系がリンの組織移行にも関与する可能性が示唆されている。血中リン濃度の日内リズム形成のさらなる理解は,CKDや維持透析患者のリン管理において重要である。