著者
辰巳 佐和子 金子 一郎 瀬川 博子 宮本 賢一
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.408-416, 2014-11-25 (Released:2015-02-27)
参考文献数
26
被引用文献数
1

無機リン酸(以下リン)は、細胞膜構成、エネルギー代謝、酵素反応を含むさまざま生理学的機能に必須な栄養素である。血中リン濃度の維持は主に腎臓、腸管および骨が担っている。そしてリンを輸送するトランスポーターの働きによって厳密に制御されているのである。このトランスポーターの発現調節は、古典的にはリン調節ホルモンである副甲状腺ホルモン(PTH)、1,25-dihydroxyvitamin D3によって知られてきた。近年、最初に同定されたフォスファトニンであるfibroblast growth factor 23(FGF23)のリン利尿作用についての研究が飛躍的に進んだ。FGF23は骨細胞から分泌され遠隔臓器である腎臓に作用しリン排泄を制御することから、リン代謝における骨腎連関が重要であることが認識された。本稿では多臓器にわたる生体内リン恒常性維持機構について最近の知見を加えて概説する。
著者
辰巳 佐和子 桑原 頌治 瀬川 博子 宮本 賢一
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.135-140, 2021 (Released:2021-04-06)
参考文献数
30

血中リン濃度は,主に腸管吸収,骨代謝(骨形成・吸収),腎臓における排泄と再吸収,肝臓,筋肉などの軟組織への組織移行により維持される。血中リン濃度は日内リズムを形成し,その形成機序は早朝空腹時のリン濃度を規定する重要な要因と考えられている。慢性腎臓病(CKD)では非常に早期よりリン代謝異常が生じている。CKDや維持透析患者の死亡リスクは,早朝空腹時の血中リン濃度と正の相関を示すことが知られている。最近,Nampt(nicotinamide phosphoribosyl transferase)/NAD(nicotinamide adenine dinucleotide)系が,ナトリウム依存性リン輸送体であるNaPi-IIa(Npt2a),NaPi-IIc(Npt2c),NaPi-IIb(Npt2b)の発現量を調節することで,血中リン濃度の日内リズム形成に関わることが明らかにされた。実際に,Namptヘテロ欠損マウスでは,血中リン濃度の日内リズムは消失する。また肝臓特異的Nampt欠損マウスでは,異常な日内リズム形成を示すことから,Nampt/NAD系がリンの組織移行にも関与する可能性が示唆されている。血中リン濃度の日内リズム形成のさらなる理解は,CKDや維持透析患者のリン管理において重要である。