著者
桑谷 善之
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

ベンゼンの炭素-炭素結合にsp炭素を2個ずつ挿入することによる設計される1,2,4,5,7,8,10,11,13,14,16,17-ドデカデヒドロ[18]アヌレン1は、等価な極限構造式の間の共鳴によりベンゼンと同じD_<6h>の対称性を持つと考えられ、分子軌道の縮退や芳香族性などの観点から興味が持たれる新奇な共役系化合物である。本研究では、対称的に置換基を持った誘導体を合成しその基本的性質を明らかにした。合成に当たっては、3,9,15位にフェニル基、6,12,18位に置換基Rを持った誘導体2を標的化合物として選択し、18員環骨格を構築した後にブタトリエン結合を還元的に導入するという方法による合成を検討した。具体的には4,10,16-トリメトキシ-4,10,16-トリフェニルシクロデカ-1,7,13-トリオン(3)を鍵中間体として合成し、そのカルボニル基に求核的に置換基を導入した後塩化スズを用いて還元することにより、ヘキサフェニル体(2a)をはじめ三種の誘導体(R=Ph,4-^tBuC_6H_4,^tBu)を得ることができた。驚くべきことにこれらはかなり安定な結晶として得られ、いずれも200℃以上の高い融点を示しその温度でもあまり分解しなかった。また、^1H NMRにおいて反磁性環電流による低磁場シフトが見られ、例えばフェニル基のオルト位のプロトンでは通常より約2ppmも低磁場に観測された。その他の分光学的データも、[18]アヌレン骨格が等価な極限構造式の間の共鳴によって良く表現されることを示しており、2が高い芳香族性を有することがわかった。さらに2aのX線結晶構造解析により、[18]アヌレン骨格がほぼD_<6h>の対称性を持つことが明らかとなった。化合物1は拡大されたベンゼンとして様々な応用が期待される。また本研究で用いた分子設計は非常に単純な考えに立脚しており、同様の方法で新しい化合物群が設計でき、今後それらに対する様々な展開も期待できる。