著者
桑野 萌
出版者
人体科学会
雑誌
人体科学 (ISSN:09182489)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.32-42, 2020-07-15 (Released:2020-07-23)
参考文献数
32

湯浅にとって比較思想とはどのような意味を持っていたのだろうか。また、それを通して何を明らかにしようとしたのか。この問いについて身体論に焦点を当て、人間のいのちの次元と密接につながっている超越への問いをめぐって、湯浅がどのように接近を試みているかを探りたい。湯浅の比較哲学の特徴は、単に既成概念やある特定の価値観から一方的に思想や思想家を評価するのではなく、思想史の全体像を観察することを通して、それらが成り立ってきた背景や体験の性質に着目する点である。本稿では、湯浅の比較思想研究の特徴と課題について次の二つの視点から明らかにしたい。第一に、湯浅の身体論発展の契機となった、近代日本哲学研究である。湯浅の思索の超文化性は、彼の師である和辻哲郎や西田幾多郎に代表される近代日本の哲学者から継承された遺産であるということができる。第二に、西洋の伝統思想と東洋の伝統思想に見いだされる超越をめぐる思考法(型) の比較である。湯浅は、それぞれの伝統文化のこの体験において築かれた超越観の成り立ちに着目し、その違いと共通性を探ろうとした。湯浅の身体論と超越の問題を軸に、比較思想の方法論を明らかにすることは、超文化哲学構築のカギとなることが期待される。