- 著者
-
梅井 利彦
- 出版者
- 福岡歯科大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1993
白血病の治療は数種類の抗腫瘍剤を組み合わせた多剤併用療法が主体である。しかしながらこれらの抗腫瘍剤は副作用が強力で、しばしば治療を中断しなければならないこともあるほどである。アンチセンス法は癌特異的な抗腫瘍効果と分化誘導効果が期待できるため、今後の発展が望まれる治療法である。今回、まず癌遺伝子のうちc-mycに対するアンチセンスオリゴマー(5′d(AAC-GTTGAGGGGCAT)3′)を合成した。さらにコントロールとして(5′d(TTGGGATAA-CACTTA)3′の2種類のオリゴマーを合成した。これらを培養中の白血病細胞株(HL-60)に作用させ、その効果を見た。c-mycがコードしているp65蛋白の合成をウェスタンブロッティング法にて確認したところ、コントロールオリゴマーでは蛋白合成に何らの作用も及ぼさなかったが、アンチセンスオリゴマーではp65蛋白の合成低下が見られた。アンチセンスオリゴマーの濃度が10muMのときおおよそp65蛋白合成が半減した。一方、アンチセンスオリゴマー存在下でのHL-60細胞の増殖は濃度依存的に抑制され、10muMのアンチセンスオリゴマー存在下で増殖も約50%抑制された。これらの増殖抑制効果は、コントロールオリゴマーでは見られなかった。このように、アンチセンスオリゴマーは白血病細胞の増殖を抑制することがわかった。今回、実際の白血病患者より得られた癌細胞を用いて、アンチセンス遺伝子の効果を検討するまでは至らなかったが、急性、慢性骨髄性白血病などの遺伝子異常が見られる細胞や、成人T細胞性白血病、多発性骨髄腫などその増殖に関与するサイトカインが知られている細胞に対しては有効な結果が期待できると思われる。