著者
西野 智昭 梅澤 喜夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.417-426, 2005 (Released:2005-08-31)
参考文献数
16

分子探針を用いた走査型トンネル顕微鏡(STM)について,これまで行われた研究を概説した.分子探針を用いることにより,探針-試料間の水素結合,配位結合及び電荷移動相互作用の各々に基づき,化学選択的なSTM観察が可能となる.これは,上記3種の相互作用に伴う電子波動関数の重なりを通じてトンネル電流が促進されるためである.分子探針を用いることによって得られる化学選択性は,探針分子に含まれる官能基を設計することにより制御できる.また,多くの分子探針は自己組織化単分子膜により下地金探針を修飾することによって作製されたが,導電性ポリマー又はカーボンナノチューブを探針として用いても化学選択性が得られる.更に分子探針によって配座解析,単分子-単分子間の電子移動の測定も可能となる.
著者
片岡 正光 阿部 浩久 梅澤 喜夫 保田 立二
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.40, no.11, pp.697-703, 1991-11-05
被引用文献数
2 2

リポソームを用いた免疫測定にフローインジェクション/接触分析法を適用し, 抗アシアロGM_1(GA1)抗体を定量する方法を開発した.リポソームは, 糖脂質であるGA1抗原.ジバルミトイルホスファチジルコリンとコレステロールを用い, 内水層にマーカーイオンとしてモリブデン酸ナトリウムを封入して調製した.リポソーム表面で抗原/抗体/補体反応が起きるとリポソームが損傷を受けチャンネル状の穴が生じ, モリブデン酸イオンが外液に流出する.モリブデン酸イオンは過酸化水素/ヨウ化物イオン酸化還元反応の触媒として働き, その反応速度はモリブデン酸イオン濃度に比例する.反応速度はフローインジェクション法により一定時間後の反応混液中のヨウ化物イオン濃度減少に基づくイオン選択性電極の電位ピークの高さとして求めた.本法により10^3〜10^4倍希釈の抗GA1抗体を定量することが可能である.
著者
金 誠培 梅澤 喜夫 田尾 博明
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.435-446, 2009-06-05

最近の遺伝子工学の発展に伴い,遺伝子操作された蛍光発光タンパク質を標識として様々な融合タンパク質プローブが設計・合成され,リガンド活性計測等に応用されてきた.今日,生体・生細胞に適用できる分子イメージング技術は,生理活性を持つ小さい分子の同定から,タンパク質-タンパク質間結合,タンパク質の構造変化までの幅広い計測ニーズに対応できるものとして応用されている.本総合論文では,著者らが最近数年間成し遂げてきた生物発光イメージング研究を紹介する.例えば,転写因子の核内移行や細胞質内非ゲノム的なタンパク質-タンパク質間相互作用を,独自のタンパク質スプライシング法を用いて計測した.また,一つの分子内に,リガンドセンシングタンパク質と発光タンパク質を集積した形態の一分子型生物発光イメージングプローブを開発した.その後,このプローブをマルチカラー化して,複数の信号伝達過程を同時にイメージングできるように発展させた.更に,生物発光プローブそのもののリガンド感受性を高める手法として,円順列置換や小さい発光酵素を用いた分子設計技術を紹介する.本総合論文を通じて,多くの分析化学者の方にこの分野の面白さをぜひ分かって頂きたい.