著者
梅谷 献二 山田 偉雄
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.19-24, 1973-03-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
11
被引用文献数
27 28

コナガPlutella xylostella (L.)は日本全国に分布しているが,北日本における越冬の可否については確かめられていない。一方,本種は欧米においては長距離移動昆虫としてよく知られ,日本においても太平洋上の定点観測船上で採集された例がある。このことから,日本の個体群にも移動による他国との交流や,本州から北海道に及ぶような移動が行なわれている可能性を残す。これを確かめるひとつの手段として,札幌,平塚,鹿児島の各地およびインドネシア・ジャワ島Malang地方(Batu村)産の個体群を用い,温度と発育期間の関係について実験し,地理的な分化があるかどうかを調査した。温度と卵から羽化に至る発育速度の回帰から,発育零点を算出した結果,最も高かったのは平塚個体群の9.5°Cで,ジャワ島Malang(8.6°C)がこれにつぎ,鹿児島と札幌の個体群はそれぞれ7.5°C, 7.4°Cと低い値を示した。しかし,1世代の有効積算温量ではこれと全く逆に札幌個体群が313日度と最も多く,鹿児島(294日度),ジャワ島Malang(250日度)がこれにつぎ,平塚個体群の229日度が最も低い値であった。このような発育零点と有効積算温量の間には負の相関関係(r=-0.978**)が認められた。温度-発育速度の回帰について,2地点ずつ共分散分析法によって比較した結果,平塚個体群は札幌および鹿児島のそれに対して,回帰係数(b)が有意に大きいこと,および札幌-Malangの個体群間では回帰直線の高さ(a)において異なっていることがわかったが,その他の組み合わせではいずれも相互の回帰に有意差が認められなかった。したがってコナガの個体群のこれらの生理的特性にわずかながら地理的な分化があるように思われる。しかし,その変動の原因については推論することはできなかった。
著者
梅谷 献二 加藤 利之 古茶 武男
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.47-53, 1975-03-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
8
被引用文献数
11 19

アカイロマメゾウムシCallosobruchus analisは,同属の他種と似た産卵習性を持ち,1粒のアズキに複数の卵を産むにもかかわらず,生育を完了して羽化脱出するのは1個体に限られるという特異的な現象がある。実験の結果,1粒のアズキは量的には複数個体を生育させるのに十分であり,共存個体の死亡要因は同一の豆の内部における幼虫の激しい攻撃に起因すると推定するに至った。すなわち,成虫脱出後の豆を解体調査したところ,本種の主要食害部は,豆の中央域に限られていることが明らかとなり,それによって生じた空洞部またはその一偶にぬり固められた摂食物残渣塊の中から主として3齢または4齢(終齢)幼虫の死体が見出された。そして,これらの死亡個体の体表から,他個体の攻撃によると思われる咬傷痕が発見された。さらには,この攻撃性に加えて主要食害部が,同属の他種においては豆の周縁部に多いのとは対象的に,本種の場合は中央域に限られるため,幼虫生育の中∼後期に相互の幼虫が遭遇することとなり,最終的には1個体を残して他は咬み殺されると推定するに至った。1粒の豆から2個体の成虫が羽化したまれな例の場合は,すべて豆の中央域に2つの食害部があり,その間は摂食物残渣塊で完全に隔離されていることがわかった。結局,このような偶然の隔離がない場合は,発育期間のいずれかの時期に,最終的には1個体しか残り得ないと解されたが,幼虫の形態には大腮を含めて攻撃的行動を特別に想起させる特徴は見出せなかった。なお,本種に見られたこのような攻撃性は,他の多化性のマメゾウムシ類では,従来知られていない。