著者
梶原 良道
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.299-315, 1994

グリンタフ地域の黒鉱鉱床と石油鉱床の形成には西黒沢階来の環境異変に伴って背弧海盆に異常濃集したPUMOS(含重金属有機堆積物の愛称)が共通起源物質として関与した可能性がある,とする著者の一昔前の仮説を,その後蓄積された地球化学データに徹して再吟味し,以下の考察を行った.1)黒鉱硫化物と原油有機硫黄は互いに酷似した硫黄同位体化を有しており,両者はともに無酸素海盆での海水硫酸イオンのバクテリア還元によって生じた生起源硫黄に由来したとみなせる.2)原油の炭素同位体比は黒鉱層準近傍の地層に含まれているケロジェンのそれと類似しており,黒鉱生成期付近においてこれらに共通の有機物の集積があったことが示唆される.3)黒鉱硫化物鉱石および石膏鉱石の初生的なストロンチウム同位体比はそれぞれ近傍油田産の原油および当時の海水の値に比較でき,黒鉱鉱化作用の初期過程に有機堆積物源および海水源のストロンチウムが本質的に関わった可能性が示唆される.4)黒鉱鉱床の鉛同位体については,広域的な均質性を示唆する情報と,鉱床間および鉱種間の有意な不均一性を示唆する情報が得られている.仮に後者を重視しても,鉛の海洋平均滞留時間が極めて短いことおよび後熱水作用による母岩との同位体交換の可能性を考慮するかぎり,PUMOS仮設を否定する材料とはならない.5)黒鉱鉱石の重金属元素組成と大洋底マンガン団塊のそれとは,PUMOSのモデル組成(定常海洋等のフラックス比)に対して補完的な関係にあり,両者が共通の海洋システムコントロールを受けていること,つまり,PUMOSの共役的な酸化還元分化産物である可能性を強く示唆している.黒鉱鉱床の形成は,局地的なマグマ熱水活動の一部ではなく,地球表層圏における生物地球化学過程によって本質的に規制されている現象であることに注意を喚起したい.