著者
梶田 美香
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.127-140, 2008-06-25

音楽科教育は表現領域と鑑賞領域に大別されているが、鑑賞教育は常に表現領域と比べて軽視される傾向にある。これは教材選択や評価方法などについての困難が大きな要因のようだが、根底には音楽の持つ抽象性や鑑賞行為が極めて個人的であるという特性との関連があるのではないだろうか。本稿では、はじめにアメリカで論争となった音楽教育哲学の二つの音楽観(美的音楽教育とプラクシス的音楽教育)を提示する。ベネット・リーマーの掲げる美的音楽教育は1980年代のアメリカで支配的な音楽教育観となったものであるが、音楽至上主義とも言えるこの教育観は、美的経験こそが音楽教育の目指すものであるとするもので、そのためには音楽の構造理解こそが必要であるとの立場である。これに対して音楽が社会の中で何らかの意義を持っているとの立場に立ったのがディヴィッド・J・エリオットのプラクシス的音楽教育である。これは音楽の実用性を指すものではなく、個人の目的に応じた「正しい行為」としての音楽との関わりを指している。この二人の音楽観は「本質知」と「行動知」の対立としてアメリカで音楽教育哲学論争を引き起こすものとなった。筆者はこの二つの音楽観から日本の鑑賞教育への何らかの示唆があるのではないかと考え、学習指導要領(音楽科)が掲げる目標と内容を分析し、本稿で課題の提示を試みる。
著者
梶田 美香
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.23-38, 2012-12-21

1990年代における公立文化施設の急増や2001年に制定された文化芸術振興基本法がきっかけとなって、日本の文化政策は文化振興に力点を置くようになった。特に貸館事業中心だったホールについては、地域に密着した自主事業の実施に運営方針の舵が切られ、舞台芸術における大きな変化となった。また美術領域においても地域全体を包み込むイベントが多く行われるようになった。本稿では、このような全国的な潮流を踏まえた上で東海圏の芸術を取り巻く環境を概観し、地域との関係性における課題を探索した。その結果、シビックプライドに関心を持つことと、劇場の働きを拡充させることについて課題があることがわかった。