著者
丸山 哲夫 梶谷 宇 長島 隆
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

昨年度に引き続き本年度は、哺乳類胚発生のメカニズムならびに胚の個体発生能を含めた質的ポテンシャルを、非侵襲的に解明し評価することを目的とした。そのために、マウス胚発生過程において培養液中に分泌されるタンパク質のプロファイル(secretome)を明らかにし、そのデータベース構築を目指すとともに、agingや機械的受精操作などがsecretomeにどのような影響を及ぼすかについて検討するための実験システムの整備を行った。まず、secretomeと胚発生・発育の関連を検討する際に、十分な胚盤胞到達率が得られなければならない。一方、プロテインチップ解析に供するためには、出来るだけ少量の培養液で行う必要があり、これは胚発生・発育にとって厳しい環境となる。このように、両者は相反するため、至適条件の確立が極めて重要である。そこで、培養液の変更など種々の検討を行った結果、60μ1の培養液量で約90%の胚盤胞到達率を再現性良く得られる培養システムを確立し、引き続いてその実験システムにより得られた各時期の培養液をプロテインチップ解析に供した。その結果、コントロール培養液に比較して、胚存在下の培養液では、複数の特異的蛋白ピークが検出され、また時期に応じてそのプロファイルは変化した。これらの一連のsecretomeのプロファイリングと胚盤胞到達率との関連を検討するとともに、今回検出された複数の特異的蛋白の同定を目指し、MALDI/TOF-MS質量分析計への解析に供するに必要な実験システムの更なる構築を行った。昨年度より引き続いて本年度得られた上記の成果は、マウスのみならずヒト胚のqualityの非侵襲的評価システムを確立するうえで、重要な基盤データになると考えられる。