著者
森 善宣
出版者
九州地区国立大学間の連携に係る企画委員会リポジトリ部会
雑誌
九州地区国立大学教育系・文系研究論文集 = The Joint Journal of the National Universities in Kyushu. Education and Humanities (ISSN:18828728)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.No.2, 2014-03

1959年に開始された在日朝鮮人帰還事業は、日朝両政府が「人道」の名の下に推進したが、朝鮮半島をめぐるデタントと南北の軍事的対峙から、そこには各政府それぞれ独自の狙いが潜んでいた。本論は、中ロ・東欧諸国に加えて日本外務省の公開資料をもとに、この各政府の狙いを究明する。一方の日本政府は、植民地統治後に国内に残留した在日朝鮮人に対する歴史的な差別構造ゆえに、彼らを経済的に財政負担要因としてだけでなく政治的な危険要因と見なし、彼らを一掃しようとした。他方で後者は、朝鮮停戦後の「平和共存」政策の時代的な要請の中、支援国家である中ソとの関係悪化に対して自国の保全対策を講ずるため、帰還事業を突破口として日本との国交正常化を目指していた。在日朝鮮人を相互に送迎するところに国益が一致した両政府は、その悲劇的な結果を充分に予測しないまま事業を敢行したのである。
著者
森 善宣 金 東吉 朴 鍾哲
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

北京大学朝鮮半島研究センターとの共同研究の結果、中ロ東欧諸国に所蔵された朝鮮民主主義人民共和国との外交電文や情勢報告書など1948年から冷戦終焉までの北朝鮮関連資料を膨大に入手した。この資料を8つの資料群に整理、編集し、北京大学翻訳家協会で邦訳して『北朝鮮関連重要資料集』全3巻に編纂して出版する。この資料集に掲載する資料群をテーマ別に示すと、次のとおり。第1巻(53~58年):朝鮮労働党内の粛清過程+朝鮮戦争後の経済復興、第2巻(56~59年):第1次5ヵ年経済計画+8月宗派事件・中国人民志願軍撤収・在日朝鮮人帰還事業、第3巻(59~61年):核開発開始の経緯+4.19政変と北朝鮮の対応。
著者
森 善宣
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

米国、中国、ロシアで公開された資料を丹念に収集した結果、朝鮮戦争(1950年6月)の開戦に至る経緯と開戦後の韓国と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)での政治・経済・社会的な変化を把握する上で、大別して5点に要約できる研究成果を挙げることができた。1.朝鮮の解放(45年8月)から南北分断体制の樹立(48年8〜9月)を経て朝鮮戦争に至る経緯を米ソ両国の朝鮮政策との関係で再整理する中で、北朝鮮による開戦の試図は当時の首相だった金日成が朝鮮共産主義運動の主導権を喪失したのを挽回しようとするところにあった点を明らかにできた。2.朝鮮戦争の開戦経緯と開戦後に起きた金日成による朝鮮労働党内の粛清とを連続的かつ論理整合的に説明できる北朝鮮内の内部矛盾の展開という仮説が正しいことを確認できた。朝鮮統一の戦略と朝鮮労働党内の権力闘争が結び付いた金日成と副首相兼外相の朴憲永との暗闘が矛盾の根源だった。3.朝鮮戦争の渦中から「対立の相互依存」構造と研究代表者が呼ぶ朝鮮分断の状態がどのように形成されたのかを実証的に明らかにできた。同族殺し合う戦争を経る中で南北朝鮮の国内に冷戦の論理を取り入れ、国内の政敵を軍事境界線の向こうの敵と同一視することで権力維持を図るようになった。4.これらの研究成果を得るために行った資料調査の中で、米国ならびに中国から公開されている資料をほぼ漏らすことなく収集でき、またロシア資料の所在と公開状況を把握できた。米国立記録保管所(National Archives II in College Park City)、北京の中国共産党直属の梢案館、モスクワに散在する記録保管所である。5.中国に亡命中の元文化宣伝副相だった金鋼氏など北朝鮮の比較的に高位の人物にインタヴューすると共に、彼らの所持する希少な資料を入手する約束を取り付けた。同時に世界各国にいる朝鮮戦争研究者との接触を通じて、今後の情報収集に道筋をつけることにも成功した。