著者
橋本 俊顕 森 建治 原田 雅史
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

自閉症には脳の器質的障害があり、「心の理論」、実行機能、中枢統合機能などの機能不全が生じ社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害の3徴候を示すと推測されている。このことから、社会のルール、特に明文化されない暗黙の了解、道徳的、倫理的事柄の把握が困難である。さらに、学校生活での問題行動や日常生活においての様々なトラブル、触法行為を起こしてしまうことも報告されている。本研究では自閉症児に見られるこのような問題行動と脳機能の関係を明らかにするために、倫理・道徳的場面を画像として課題負荷し、良い、悪いの判断を求め、その情報処理の過程の脳活動をfMRIを用いて測定した。対照は無意味図形とした。刺激は課題負荷45秒-コントロール課題45秒を2回、1シリーズ3分の構成のbox-carデザインで行い、判断できた合図は右手でスイッチを押させた。対象は高機能自閉症男児7名(11〜17歳)と健常男児3名(13歳)、健常成人7名、非自閉症のてんかん、Sotos症候群各1例の計19名である。検査に際しては保護者及び被験者に十分に説明し納得と同意を得た。健常者では側頭・後頭境界部〜側頭葉中部(左>右)、左右前頭葉背外側および前内側に活動性の亢進が見られた。高機能自閉症では前頭葉背〜腹(左<右)、前頭葉全部内側、頭頂葉〜側頭・後頭境界部〜側頭葉前部(左<右)に活性が見られた。その他、左中心前回、右前頭葉腹側および正中部に活性が見られた。自閉症と健常児の間では課題の正答率に差はなかった。課題の正答率に差がなかったがこれは課題内容が簡単であったことが想定されるが、実際の場面とこのような課題負荷では情動の影響が異なっていること、自閉症ではいかに行動すべきか解っているが実際に採るべき行動が採れない解離現象があることから、差が出なかったとも考えられる。fMRIの結果から自閉症では課題処理の系が健常者と異なることが想定されるが、さらに例数を増やし、課題の工夫をして検討することが必要である。