著者
森 瑞季
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-17-00008, (Released:2019-09-30)
参考文献数
25

近年,労働統合型社会的企業の研究の気運は高まってきているが,そこで働くスタッフの社会的関係ならびに承認の構造は先行研究をみてもいまだ明らかではない.本研究は,その社会的関係を参与観察から得た情報をもとに分析し,明らかにしようとしたものである.参与観察の結果,スタッフは「共働の論理」と労働者の生活を保障するための「ワーク・ライフ・バランス重視の論理」という二つの論理,また「私的な関係性」と「社会的な関係性」という二つの関係性のもとに,相互に承認しそれにもとづいて社会的関係を構築していることが判明した.とはいえ,これらの論理や関係性は両立しがたい性質を持っている.それでも職場組織が崩壊しないのは,共働のなかで他者への配慮がなされ,そしてそれにもとづく承認という共通した認識が寛容さに基いて暗黙裡に形成されていたからであった.そしてこれらによってできあがった社会的関係はまさに連帯と呼ぶにふさわしいものであった.本研究は,このように承認論の観点から労働統合型社会的企業に関する研究の発展に寄与するものである.