著者
小牧 奈津子
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-22, 2017 (Released:2017-07-05)
参考文献数
40

本稿では,自殺対策基本法制定以降の政策過程を検討し,そこでNPOが与えた影響を明らかにするとともに,その影響力の源泉の導出を試みた.NPO法人ライフリンク代表の清水康之へのインタビューと,2つの諮問機関での議論の分析から,ライフリンクは,遺族とのつながりを通じて自殺の実態に関する貴重な情報を取得するだけでなく,国会議員とのつながりを構築・強化してきたことが明らかとなった.この国会議員との関係性が,ライフリンクの政策提言の影響力を高める源泉として機能したといえる.ただしNPOが政策過程でそうした大きな影響を及ぼすことには,弊害や危険性を指摘する声も少なくない.実際,本稿からも諮問機関での議論をバイパスし,NPOが政策過程に直接,強い影響を与えている様子が浮き彫りになった.この影響を検証・評価するためには,その後の政策過程を含めて更なる検討を行っていくことが必要であろう.
著者
坂本 治也
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-18-00021, (Released:2019-10-17)
参考文献数
34

市民社会の発展を促す法制度は,誰によって,どのような理由・動機で,推進されるのか.この点を明らかにする研究は,これまでのところ十分な蓄積がなされていない.とりわけ,法制度の制定・変更に決定的な影響力を有する議員の分析が欠如している.本稿では,現代日本のケースを題材に「NPO政策の推進に関与する国会議員はどのような特徴を有するのか.なぜNPO政策を推進するのか」を,合理的選択論の理論枠組みと国会議員データを用いた定量的分析によって明らかにした.分析の結果,明らかとなるのは,以下の事実である.NPO政策は「票になりにくい政策」であるが,同時にニッチな政策であるがゆえに,「昇進」のための業績誇示の成果を得やすい政策の1つである.それゆえ,選挙に強く「再選」動機が弱い議員ほど,また当選回数が多く「昇進」動機が強い議員ほど,NPO政策の推進に関与しやすい傾向がある.また,中道左派・リベラルな政党や派閥への所属や比例区選出議員かどうかもNPO政策の推進態度と関連している.
著者
川脇 康生
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1+2, pp.1-13, 2014 (Released:2015-03-25)
参考文献数
26

東日本大震災の教訓として,地域住民,団体など多様な主体の「共助」による災害対応力の強化が求められている.次の大災害の発生が差し迫ったものとなる中,災害時の行政の対応能力の限界も踏まえつつ,平時から地域の住民や団体が相互に協力し合い,災害に備えておくことが重要であるとされる.本稿は,震災前の地域活動への参加に見られるソーシャル・キャピタルの醸成が,震災後の共助活動(支援・受援)に携わる可能性をどの程度変化させていたのか,被災地調査に基づくミクロデータをもとに,支援関数と受援関数の相関を考慮したモデルを構築し,定量的に示そうとするものである.推定結果から,震災前の地縁活動や市民活動への参加程度が増えると,震災後に支援・受援に携わる確率が有意に高くなり,ソーシャル・キャピタルは,復旧・復興過程において人々の相互協力を効率的にし,復興を促進する効果のあることが示唆された.
著者
仁平 典宏
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.79-94, 2021 (Released:2022-04-30)
参考文献数
22

本論文は,NPOに対し不信の眼差しを向けられているというデータを出発点として,その背景について検討したものである.先行研究から,政治・党派性忌避と偽善忌避という二つの仮説を設定し,JGSS〈2012〉データの二次分析と,新聞記事の計量テキスト分析及び内容分析という手法で,その妥当性を検証した.そのうち政治・党派性忌避の効果は,本分析の範囲では十分に認められなかった.逆に新聞記事分析から見えてきたのは,NPOという語と政治,運動,市民に関する言葉との連関が弱まってきたことである.他方,偽善忌避に関しては,どちらの分析でも支持された.記事分析では,NPOの記事の総数が減る中で不正に関する記事の割合は増えた事が分かり,それがNPOの偽善イメージを強化する恐れがある.不正の背景には新自由主義的な制度環境があり,それを改善することがNPOへの連帯を生み出すことにつながると考えられる.
著者
竹部 成崇
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.57-65, 2016 (Released:2016-07-13)
参考文献数
21

近年の研究は,寄付には寄付者の幸福感を高めるという心理的効用があり,その効用はその後の寄付行為を動機づけて寄付を個人内で連鎖させることを示唆している.寄付は資源の再分配の1つの形であることを考慮すると,貧しい人々より豊かな人々において寄付が積極的になされることが期待される.そのため,この心理的効用も,豊かな人々においてより強く得られることが期待される.しかしこれまでの知見を考え合わせると,こうした期待とは反対に,豊かな人々の方が寄付の心理的効用を得にくい可能性が考えられる.また,東日本大震災前後の価値観や状況の変化を考慮すると,この関連は震災後には消失している可能性が考えられる.これらの仮説を検討するため本研究では,東日本大震災前後における経済的な豊かさと寄付の心理的効用の関連を検討した.その結果,震災前は貧しい人々においてのみ,寄付経験が幸福感を高めていたのに対し,震災後は貧しい人々においても豊かな人々においても,寄付経験が幸福感を高めていた.本研究の示唆及び限界点が議論される.
著者
竹端 寛
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.33-43, 2011 (Released:2011-12-20)
参考文献数
43

本稿では,NPOのアドボカシー機能の「小さな制度」化とその課題について考察するために,ある精神医療分野のNPOの事例分析を行った.精神医療オンブズマン制度は,NPO団体の活動実績と提言に基づき大阪府で制度化された,アドボカシー機能の「小さな制度」化の実例である.これは一定の成果があったが,財政削減を理由に廃止された.この事例分析を行う中で,NPOの企画提案に基づく行政とNPOの「協働事業」としての制度化プロセス自体がNPOの一つのアカウンタビリティであったこと,アドボカシー機能の「小さな制度」化は府の政策と実践に具体的な事業改善をもたらしたこと,NPOには制度の成果や地方政府との「相補」性の意義等を事業委託主である地方政府にだけでなく政治家や広く市民にも果たすアカウンタビリティが求められていること,の三つが明らかになった.
著者
渡邉 文隆
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-22-00004, (Released:2022-11-30)
参考文献数
127

米国と日本の寄付市場の構造と特性を,既存研究と検索需要データを基に考察した.市場の量的な側面はSCPパラダイム,質的な側面は市場の質理論を用いて分析した.量的な面では,日本の寄付市場が米国同様に断片化した構造を持っていることが明らかになった.また,日本では災害が市場成長のドライバーとして大きな影響を与えており,日本の寄付文化はチャリティに力点があること,ベースとなる構造的寄付が未成熟であることを示した.質的な面では,高額寄付・小口寄付のいずれにおいても,寄付市場の仲介機能を充実させることが市場の質を高め,寄付の促進に資すると推測される.日本では,多様なアプローチで野心的目標に取り組むフィランソロピー的な団体がさらに参入し,他と競合しにくい新たな寄付需要を生み出すことで市場の成長に貢献すると思われる.
著者
寺下 和宏
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1+2, pp.81-93, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
26

本稿は,ヘイトスピーチ解消法の事例分析から,市民社会組織のブーメラン戦略がいかなる政治的帰結をもたらすのかを明らかにした.これまでの研究では,国内での政治アクセスが難しい市民社会組織は,他国や国際機関を通じて,圧力をかけるブーメラン・パターンによって政治的帰結を生じさせていると論じてきた.他方で,ブーメラン・パターンによる国際的圧力は限定的なものであるという反論もあった.しかし,いずれの議論もモデルの妥当性には疑問符がつき,実証性に乏しい.そこで本稿では,合理的選択論に基づき仮説を構築した上で,日本におけるヘイトスピーチの政治過程を検討した.その結果,イシュー・セイリアンスと,選挙サイクルの組み合わせによって,与党がとりうる行動が変わり,その結果生じる帰結も異なったことで,差別規制には不完全な法律が制定されたことを明らかにした.これにより,市民社会組織のブーメラン戦略によってもたらされた国際的圧力は,国内アクターによって利用される可能性を示した.
著者
Judith M. van der Voort Lucas C.P.M. Meijs
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.9-18, 2004 (Released:2005-03-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

To date, there are little or no examples known of real integrative and sustainable partnerships between companies and voluntary organisations in the Netherlands. It is concluded that besides a Direct approach to these partnerships, a unique Dutch or Indirect approach is taken in which local mediators bring companies, voluntary organisations and the local government together. A set of common characteristics regarding partnering perspective, barriers and success factors, is introduced as a basis to interpret and compare both perspectives. It is stated that both a (lacking) definition and (lacking) success factors are at the basis of understanding and overcoming barriers to a partnerships’ evolution.
著者
桜井 政成
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.111-122, 2002 (Released:2003-04-23)
参考文献数
35
被引用文献数
8

本研究の目的はボランティア活動に参加する人々の参加動機の構造を分析し,その結果の政策的含意について考察することである.京都市域のボランティア287名を対象に調査を行い,参加動機項目を因子分析した結果,7種類のボランティア参加動機因子を抽出した.それぞれ,「自分探し」因子,「利他心」因子,「理念の実現」因子,「自己成長と技術習得・発揮」因子,「レクレーション」因子,「社会適応」因子,「テーマや対象への共感」因子と名付けた.また,得られた参加動機構造モデルの妥当性を検討するために,個人的属性やボランティア活動への参加形態による参加動機構造の差異について分析した.その結果,性別,年齢層,職業,過去の活動経験の有無,活動対象分野,活動歴において類型ごとの差異が見られた.このうち性別と活動歴を除いた分析は,先行研究の結果や経験的な見地から妥当な結果であると言え,従ってモデルの妥当性は確認された.本調査の結果からNPOや政策担当者にとって,ボランティアの受け入れや推進のためにその動機の多様性を理解することは重要であると言える.
著者
坂本 治也 富永 京子 金澤 悠介
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-22-00013, (Released:2024-02-16)
参考文献数
41

なぜ日本人の政治参加は他国と比べて低水準なのだろうか.なぜこの30年あまりの間に低下し続けているのだろうか.これらの問いに答える新たな理論的説明として,本稿では過去の大規模な社会運動に対する否定的評価が政治参加水準に与える影響に着目する.つまり,日本人の政治参加が他国の人々に比べて低調であり時系列的にも低下しているのは,過去の社会運動に対する悪いイメージが投票参加を除いた政治参加全般に投影されて,政治参加への強い忌避感を生じさせているためではないか,との仮説を立て,その仮説の妥当性を検証した.分析の結果,1960年安保闘争や2015年安保法制抗議行動への否定的評価は,投票参加以外の政治参加(ボランティアや寄付を含む)に対して有意な負の影響を与える関係にあることが明らかとなった.日本人の政治参加水準を向上させるためには,過去の大規模社会運動に対する悪いイメージが政治参加全般に安易に投影されている現状を改めて行く必要がある.
著者
原田 峻
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.77-87, 2017 (Released:2018-03-15)
参考文献数
17

本稿では,NPO法制定過程における立法運動の組織間連携の要因を分析し,NPO法制定以前は異なる分野や団体形態で活動していた市民団体が,なぜ法制定に向けて連携できたのかを明らかにした.まず,阪神・淡路大震災以前は「先行する社会的紐帯」としての1980年代からの分野内・分野間の連携経験と,アメリカ視察等を通した「理念の共有」が,連携を容易にする要因となっていた.法案が国会で議論されるようになると,争点をめぐって分野間の連携に障壁があり,それぞれが独自の運動を展開したが,争点に妥協ができるまで法案が修正されるとともに,衆議院での法案通過という政治的機会,そして参議院での法案通過を前にした連立政権の解消という危機が存在したときに,大きな連携が形成された.NPO法の制定過程そのものが市民団体間の連携を拡大させる契機となっており,その過程で,各分野が抱いている法人制度への理念の相互理解が図られていったと言える.
著者
岡田 彩
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.41-54, 2020 (Released:2020-07-31)
参考文献数
32
被引用文献数
2

人々の関心をいかに惹きつけ,寄付やボランティアをはじめとする自発的な行動へと促すか.すべてのNPOに共通するこの課題に対し,多くの団体は,マーケティングのノウハウを用いて戦略的な情報発信を行っている.本研究は,効果的・効率的な情報発信のヒントを探るべく,NPOの広告を目にした人が,提示された情報のどの要素に着目し,活動や団体への印象を形成しているのかを検証するものである.大学生895名を対象に,ある有名NPOが実際に用いたことのある,特徴の異なるオンライン広告を複数提示し,「最も心に響くもの」を選んだ上で,選択の理由を自己分析し,自由回答形式で記述してもらった.これをデータとした計量テキスト分析から,写真の登場人物が誰であるか,その登場人物がカメラ目線であるかどうか,具体的な数字が提示されているかどうか,またその数字が問題を表現しているかどうかが,広告の構成要素として重視されていることが明らかとなった.
著者
原田 峻
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-12, 2015 (Released:2015-10-06)
参考文献数
20
被引用文献数
4

本稿では,2011年6月の特定非営利活動促進法改正と新寄付税制をめぐる政策過程について,唱道連合フレームワークを用いて分析した.民主党政権の発足直後には,自民党税調-財務省主計局連合の弱体化と「新しい公共」連合によるアジェンダ設定を受けて,「新しい公共」連合と外部の専門家による政策志向的学習が進められ,閣法でのNPO法改正・新寄付税制の大枠が固められた.だが,ねじれ国会によって民主党政権単独での政策実現が困難になると,「新しい公共」連合・NPO議員連盟・全国知事会という3つの唱道連合での調整が,衆議院法制局・総務大臣政務官を政策ブローカーとしながら進められた.そして,東日本大震災という外部ショックを受けながら,「シーズ=市民活動を支える制度をつくる会」を政策ブローカーとしてNPO議員連盟と背後の各党の調整が進められ,NPO法改正が議員立法として,新寄付税制が閣法として,それぞれ成立した.
著者
稲田 千紘
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1+2, pp.139-149, 2019 (Released:2020-03-02)
参考文献数
19

本稿は,NPOと行政の協働の場面における妥当な政治活動のルールを議論する第一段階として,市民活動促進条例における政治活動規制について,第一に全国の条例に含まれる規制条項の制定状況と内容を把握し,第二に,規制条項の議会での審議過程を整理することによって,その現状と問題点を示した.その結果,条例全体の45%になんらかの政治活動規制条項があり,その多くは特定非営利活動促進法の政治活動規制(2条2項2号)に準拠した規制枠組みを設けていることがわかった.課題として,憲法21条1項に抵触するおそれのある政治活動規制条項が,議会でほとんど議論されることなく策定され,条例制定の全国的な広がりを経て,条項が非常に多様な形となり,NPOセクターの法人格の中で最も詳細で厳しい政治活動規制よりも厳しい規制条項が存在していることを示す.
著者
馬場 英朗
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.83-95, 2007 (Released:2008-04-04)
参考文献数
34
被引用文献数
1

NPOと行政の協働が叫ばれる状況下,NPOへの委託事業が増加しているが,十分な対価が確保されず,NPOが安価な下請先とされる懸念もある.この点,NPOと行政の協働が進むイギリスでは,フルコスト・リカバリーの考え方を示し,直接費だけでなく,間接費も含めた全てのコストをNPOが回収するように提言している.本稿では,イギリス及び「NPOと行政の協働に関する実務者会議」(愛知県)の議論を参考に,NPOが回収すべきフルコストの範囲を検討し,愛知県下3例の協働事業についてフルコストの試算を行った.その結果,行政による積算はフルコストの5割から7割しかカバーしておらず,事業内容に見合った人件費単価が設定されていない,事業に必要な経費が漏れなく計上されていない,団体を維持するために不可欠な間接費が見込まれていない,という問題点が明らかになった.ただし,NPO側にも,本当に必要な人件費や間接費の水準を示すことができていないという問題がある.
著者
森 瑞季
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
pp.NPR-D-17-00008, (Released:2019-09-30)
参考文献数
25

近年,労働統合型社会的企業の研究の気運は高まってきているが,そこで働くスタッフの社会的関係ならびに承認の構造は先行研究をみてもいまだ明らかではない.本研究は,その社会的関係を参与観察から得た情報をもとに分析し,明らかにしようとしたものである.参与観察の結果,スタッフは「共働の論理」と労働者の生活を保障するための「ワーク・ライフ・バランス重視の論理」という二つの論理,また「私的な関係性」と「社会的な関係性」という二つの関係性のもとに,相互に承認しそれにもとづいて社会的関係を構築していることが判明した.とはいえ,これらの論理や関係性は両立しがたい性質を持っている.それでも職場組織が崩壊しないのは,共働のなかで他者への配慮がなされ,そしてそれにもとづく承認という共通した認識が寛容さに基いて暗黙裡に形成されていたからであった.そしてこれらによってできあがった社会的関係はまさに連帯と呼ぶにふさわしいものであった.本研究は,このように承認論の観点から労働統合型社会的企業に関する研究の発展に寄与するものである.
著者
小牧 奈津子
出版者
日本NPO学会
雑誌
ノンプロフィット・レビュー (ISSN:13464116)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-22, 2017

<p>本稿では,自殺対策基本法制定以降の政策過程を検討し,そこでNPOが与えた影響を明らかにするとともに,その影響力の源泉の導出を試みた.NPO法人ライフリンク代表の清水康之へのインタビューと,2つの諮問機関での議論の分析から,ライフリンクは,遺族とのつながりを通じて自殺の実態に関する貴重な情報を取得するだけでなく,国会議員とのつながりを構築・強化してきたことが明らかとなった.この国会議員との関係性が,ライフリンクの政策提言の影響力を高める源泉として機能したといえる.ただしNPOが政策過程でそうした大きな影響を及ぼすことには,弊害や危険性を指摘する声も少なくない.実際,本稿からも諮問機関での議論をバイパスし,NPOが政策過程に直接,強い影響を与えている様子が浮き彫りになった.この影響を検証・評価するためには,その後の政策過程を含めて更なる検討を行っていくことが必要であろう.</p>