著者
森住 史
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.223-235, 2002-03

本研究の目的は大きく分けて次の二点である.1)女性の方が男性よりも外国語学習をする傾向にあり,さらに女性の方が男性より外国語学習において優れている,という,しばしば当然の事のように人々が信じていることが,実際に正しいのかを検証する.2)上記の点に関して,女性と男性が外国語と外国語学習において異なる傾向をしめすならば,違いが出る要因に何があるのか検証する.幅広い分野(ジェンダー学,社会心理学,社会言語学,言語教育,教育学など)の先行研究ならびに新聞雑誌の記事に加え,統計上の数字を検証(イギリスのGCSE/GCE,東京外国語大学の入学志願者/入学者数,国際基督教大学での語学クラスの登録状況とTOEFLの成績)した結果,男性より女性のほうが外国語学習に熱心で,しかも成績がいい,という一般的な考え方を確かめるものとなった.そこで次に外国語学習者自身に焦点をあて,アンケートとインタビューによる調査をエディンバラ大学(パイロットスタディ)と国際基督教大学で行った.その結果,まず卒業後の進路とその前段階での高校での理系文系の進路に決定により,語学科目が「女性のもの」という規範が学生達によって認められていることが確認された.更にインタビューから分かったことは,語学学習を取り巻く環境のなかで,学生達が自分の信じるジェンダーアイデンティティやエスニックアイデンティティと社会規範に沿って行動していることが多い,ということである.つまり,「女/男であること」「日本人であること」の意識が外国語学習に対しても影響を与える要素であり得るのである.これは今までの言語学習におけるジェンダーの研究のなかで,ほとんど触れられてなかった点である.本研究は,言語学習におけるジェンダーの有り様をより良く理解する鍵が,インタビューの語りにおける言語学習者達の生きた声のなかに見つかる可能性を示している.
著者
森住 史
出版者
国際基督教大学
雑誌
教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.57, pp.119-128, 2015-03

近年,文部科学省主導の「グローバル30」や「スーパーグローバル大学創世支援」により,EMI(English as the medium of instruction)をカリキュラムに組み込む大学が増えてきた。EMI の実施は,日本人学生の英語力を上げて「グローバル人材」を育成することと,英語で学んで学位を得ることができる環境を整えることでより多くの留学生を呼び込むことという二つの目的をかなえる形で進行している。その意味においては国の言語政策という極めて政治的なディスコースとして解釈することが可能である。しかし同時に,教育の現場のステークホルダー,特に実際の教室での授業に関わる教員と学生にとってEMIプログラムがどのような意味を持つのか,そして現場でどのような問題が実際に起きているのかについては,まだ十分な検証はできていない。Public-funded programs such as Global 30 and Top Global University Project have been supporting the growth of EMI (English as the medium of instruction) programs in Japanese universities. The government and the MEXT hope that the implementation of EMI will help Japanese universities become more 'global' in two ways: first, it will help prepare domestic students for English-speaking work place, and second, it will allow more international students to study at Japanese universities. In this sense, EMI movement in Japan can be interpreted as a part of political discourse concerning language policy. However, it is also a pedagogical issue affecting teachers and students. This paper provides an overview of the current state of EMI in Japanese universities and its implications in classroom practice.
著者
森住 史
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.97-102, 2016-03-31

日本の文部科学省は,2002 年の「「英語が使える日本人」の育成のための戦略構想」以来,2003 年の「「英語が使える日本人」の育成のための行動計画」など,次々に英語教育改革についての発表を行ってきている。しかし,文部科学省が英語教育推進を打ち出すたびに,その計画には,国語教育充実や,日本文化・伝統・日本人の価値観を教える教育の充実が伴っている。「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を例にとってみると, 7 ページにわたる書類のうち,最後の一枚はすべて「日本人としてのアイデンティティに関する教育の充実について」というタイトルのもと,国語教育,伝統教育,歴史教育を充実させる計画が盛り込まれている。文部科学省の英語教育推進は,英語と英語教育が日本人にとって脅威とうつらないように,和魂洋才の体裁をもって提示されていると言える。