著者
岡本 葵 藤田 英典
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.51, pp.93-102, 2009-03-31

アファーマティブ・アクションの目的は,過去の社会的・構造的差別によって何らかの不利益を被ってきた人々に対して積極的な配慮を行うことによって,実質的な機会均等を社会全体として達成することにある.しかし,今日,この概念の起源国アメリカにおいて,アファーマティブ・アクションを「逆差別」「反能力主義」とする批判が増加している.本稿は,アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの展開を概観する中で,真の意味での「能力主義」を達成するためには,実質的な「機会均等」をめざすアファーマティブ・アクションの実施が有効な手段になり得ることを検討する.
著者
呉 恵卿
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.119-127, 2014-03-31

本稿の狙いは,韓国の都心大型市場という空間が言語の芸術性を実現する場であり,ことば共同体として機能していることを明らかにすることである。市場に見られる談話型のうち,本稿では商品と関連した単純な情報を繰り返す「叫び型」談話に着目した。SPEAKINGモデルを援用して韓国の市場で収集した「叫び型」談話を提示し,他の談話型との違いについて述べた。さらに,「叫び型」談話をバーバルアートの側面から考察し,特定の音韻や文法,意味,韻律構造の反復によって実現される言語的並列構造が市場談話の中にどのように現れているのかを分析したところ,韓国の市場における「叫び型」談話は一定の押韻パターンを持ち,遊戯性に優れる詩的構造を持つことが示された。また,音律パターン,同一音韻の反復,語彙的・統語的変異という談話レベルの装置によって音楽性をもった一つのバーバルアートになっていることが明らかになった。
著者
バックリー 節子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.61, pp.39-47, 2019-03-31

1990年代のバブル経済崩壊により,日本は中流社会から格差社会へと移行し,さらに社会グループの急増により,多文化社会に突入した。この傾向は社会公正の論争を牽引しているが,責任ある市民の期待を担う青年の多数は公共問題に無関心で,公共,政治活動に従事していない。2015 年6 月,政府は政策を一新しようと,被選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げた。しかし未だ単一文化同一性は中央集権政府に統制され,青年は社会から疎外され,引きこもるか社会的政治的暴力に走りがちである。社会の承認,恩恵のない社会参加不可能な状況下で,個人,社会の統合はあり得ない。本研究はまず単一文化同一性,社会格差の下で,青年が直面する問題を捉える。次に心理社会学的立場から,統合の壁となる個人と社会の関係を分析する。最後に公正に影響を及ぼす文化的意味,道徳的価値を分析する。開放的,包含的社会を重視した市民社会を構築するのに,この方法は有意義であろう。
著者
渡辺 久子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.119-125, 2018-03-31

日本の英語教育は入試偏重で非効率であると批判されるが,その批判は大学入試研究が不十分なまま為されており,現実を反映しているとは言えない。本小論文では日本の英語教育背景の概要及び大学入試のもつ良い影響が考察される。大学入試の変化に対応するため授業も変わりつつあり,生徒は大学入試のために高いレベルの習得を目指している。大学入試に関する研究が深まれば英語教育の問題解決のヒントが与えられるのではないか。
著者
武田 礼子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.121-127, 2016-03-31

一般的にフェイス(面子)研究の原点は,コミュニケーション研究であるが,外国語教育研究において,フェイス研究の実証研究は稀少であるため,未だに発展途上の分野である。本稿では,フェイスと外国語学習を考察する。まず背景にある,ゴフマン(1967)のフェイス理論,またその影響を受けたブラウンとレヴィンソン(1987)のポライトネス理論を論じる。次にゴフマンと同様,フェイスを普遍的だと論じるリンとバウワーズ(1991)が提唱する構成概念を紹介する。また中国発祥と言われる文化特有のフェイスの具体例として,中国人留学生を対象とした研究も紹介する。本稿では普遍的・文化特有,それぞれの立場のフェイスの諸研究を考察し,感情とフェイスの関連のように潜在的可能性のある分野にも触れ,外国語教育への応用も検討する。
著者
生井 裕子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.51-60, 2014-03-31

日本人にとって,「ふつう」という言葉は,文脈により多義的な意味を内包している。また「ふつう」の捉え方は,適応と深く関わりを持つことが指摘されている。しかしながら,個々の「ふつう」の捉え方の違いのあり方や要因については,これまでの研究において十分明らかにされてこなかった。そこで本研究では事例検討を通じて,適応的な「ふつう」概念について,いくつかの視点を提示することを目的とした。面接過程の検討より,適応的な「ふつう」概念について,以下の視点を提示した。1)自己を客観視する視点を持てている。それは,「ふつう」を適応的な「仮面」として用いることを可能にする。2)自己の内的感覚を明瞭に捉え,健全な自尊心を持っている。また自己の否定的感情を抱えられるため,仮面としての「ふつう」を防衛的に使用する必要がない。3)「周囲と調和している」といった,安定した主観的感情と共に「ふつう」が体験されている。
著者
バックリー 節子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.62, pp.79-85, 2020-03-31

現在,日本は生活水準向上のため,高度な知識,スキルを必要とする知識基盤,実力主義社会である。 一方,日本では少子高齢化が急速に進み,雇用不足の撤回,高年齢者介護福祉が必須とされる。しかし, 男性中心の雇用,社会システムおいて,女性差別は深刻な問題である。1985 年の雇用機会均等法施行以 来,政府は雇用,社会システムにおける男女平等に全力を尽くしているが,教育の機会均等にもかかわ らず,日本の雇用,社会システムは依然として,男女不平等である。本稿は,まず雇用,社会システム における女性差別問題を明確にする。次に,政府がどのように女性差別問題に取り組んでいるかを探索 する。さらに,心理学的,社会学的立場から,日本女性の社会進出への可能性を探索する。本稿は特殊 文化を持つ日本社会における女性差別問題を論理的に提起し,女性の社会進出を社会の公生及び人権レ ベルで捉えることにおいて,有意義であろう。 Today Japan is a knowledge-based and performance-based society where demonstrating advanced knowledge, information, and skills are critical to success. Meanwhile, Japan is facing a sharp declining of the birthrate as well as societal aging, a combination which causes a labor shortage. In spite of the equal opportunity for education for all in Japan, the labor and social system stressing Japanese traditional gender roles certainly reveals gender inequality. Consequently, labor shortage and gender inequality in the labor and social system is a critical issue. The question is how to change a distorted gender perspective and take action for equity and human rights. Since the Equal Opportunity Law was enacted in 1985, the Japanese government has been striving to attain gender equality in the labor and social system. This paper will 1) clarify the gender issues in the labor and social system; 2) examine the government measures to attain gender equality in Japan; and 3) examine gender equality for equity and human rights from a psycho-sociological perspective. Advanced knowledge, information, and skills are needed to enhance equity in the labor and social system. Furthermore, there is a need for empowering the relationship between men and women that may help them to build a gender-equal society. Without a change of men's consciousness about gender equality, there is no solution. This approach could benefit educators to find ways to attain gender equality and to empower the relationship between men and women in the labor and social system, which could result in attaining human rights in Japan.
著者
水口 洋
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.55, pp.43-53, 2013-09-01

学校教育を構成する特別活動の中で,学校行事は生徒の帰属意識を培うために有効な手段となっている。それぞれの学校の特色は行事の中に見られる。しかし,学校行事の一部に位置づけられる儀式的行事は,多くの生徒・卒業生にとって印象の薄いものとなってしまっている。それは式典の意味がきちんと伝えられていないからであろう。歴史的に見ても,式典の形式や内容については,様々な議論が展開されてきた。とりわけ,式典における国旗・国歌の用い方を巡って政治的・社会的問題が繰り返されてきたが,肝心の生徒に対する式典の意義は議論されずに,例年通りに踏襲されているに過ぎないことが多い。本稿は学習指導要領に見られる特別活動の意味を視野に入れつつ,式典等の儀式的行事の持っている教育的意味について考えてみたい。児童・生徒にとっての,「節目体験」になる区切りの行事の大切さについて考察してみたい。School events are an effective means of giving students a sense of belonging. The characteristics of the school are also evident in various school events. Unfortunately “ceremonial” events have, over time, lost significant meaning for students. Historically, the form and content of ceremonies have created various problems. Problems concerning the national flag and the use of the national anthem in the school ceremony have repeatedly created political and social dispute, although there has been no debate in the educational sphere on its meaning. I will consider the meaning of school ceremonies in this paper and consider the meaning of the events that are important in students’ social development.
著者
マーハ ジョン C.
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.117-123, 2011-03-31

あだ名とは、個人に属する名前の代わりとして、もしくは、個人の名前に付け加える形で、個人を特定する参照表現である。それは新しい分類化である。名前を作り出す方法が存在する。あだ名は語彙を増やす。あだ名とは、他人の先入観や、性的、人種的ステレオタオプや、集団の規範の強化などを明らかにする。あだ名とは、社会管理の一つの形である。あだ名は、同族意識と集団の連帯感覚、つまり団結心を強めることができる。あだ名はしばしば、社会的、言語的な行動に影響を与える。個人は、あだ名を持つことにより、自分の行動の特徴や、話すアクセントや体型や日常の習慣を変えようとすることがある。同じ集団にいる人々を特定し、明確にすることもできる。あだ名をつけることは、こども時代に、そして学校において、広く普及している。男性は女性より、あだ名をつけられたり使ったりすることが多い。男性のあだ名は、強さや大きいことという意味を含むことが多い。たとえば、野球の松井秀喜選手をゴジラを呼ぶといったものである。女性のあだ名は、軽蔑的あだ名であるよりは、愛情のこもったものであることが多く、身体的・個人的特徴 (美しさ、親切)を示す傾向がある。学校の教師にあだ名を付ける慣行は広く普及している。教師は、教員としてのステレオタイプなイメージを自ら投影する。この教室でのペルソナは、子どもたちから教師を守り、また教師のプライベートな生活を守る防御手段となる。一般には親しさや、あるいは不満や軽蔑を表明するために使われる名付けの工夫を生徒がこっそりと使うことは、おそらくは強力な人物の地位を対処できる程度にまで矮小化する方法である。こういう形で、生徒であることからくる無力感が和らげられるのである。ここで使用するデータは、2008年から2010年における東京西部のある中学校の2.3年生のものである。
著者
アルベール ギヨーム
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.25-32, 2016-03-31

大学生が高等教育レベルを学ぶ時,基礎的な要件となるのは論文の書き方である。しかし,常に問題とされるのは,彼らが中等教育で論文の書き方を既に学んでいることを求められている点である。ただし,そのような知識を要して論文を書いている学生は稀である。同時に筆記試験が基本という教育制度において論文を書くための知識を中等教育の時から高めるたとしても得られる価値は少ないのである。本稿はKuhlthau のInformation Search Process(情報検索プロセス)を使い論文作成の最初のステージに焦点をあてる。研究を理解する上で重要なWord Knowledge(言葉知識)について主にスポットライトをあてる。ICTの発展により,データベースにアクセスしやすくなったことで,文献レビューの機会が多くなり研究の幅が広がった。しかし,それらデータベースを使いこなすためには,Word Knowledge(言葉知識)が必須であるが,その概念を理解し咀嚼することは難しい。本稿は,理論的観点と実践的観点の二つのアプローチを取る。
著者
荻本 快
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.81-88, 2014-03-31

父親と幼児によるRough-and-Tumble Play(RTP:乱闘遊び)は,幼児が自らの攻撃性を制御する能力の発達に寄与することが示唆されてきた。本論は,父子のRTPに関する幼児の発達理論に基づき,介入プレイ観察法による事例検討をもとに理論的考察を行うことで,父子のRTPにおける幼児の自己制御の発達要件について,その変数間関係を考察した。その結果,RTPにおいて優位性を保つ父親が攻撃性を制御する態度と行為を示し,それを幼児が模倣することで,攻撃性の制御の内在化を促進する父子の協調が生じることが見出された。そして,幼児の攻撃性の制御が安定化する過程で,RTP中に幼児が自らの限界を超えようと挑戦することと,それに対する父親からの賞賛と誇りの表現によって幼児の父親への同一視が強化されることが考察された。
著者
中嶋 佳苗 磯崎 三喜年
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.61-69, 2014-03-31

本研究は,「ふたりきょうだい」に焦点をあて,「きょうだい」関係における対人魅力の検討を行った。研究1では,日本の大学生96名を対象にきょうだいにおける対人魅力尺度を作成し,研究2では,研究1で作成した尺度を用いて性格の社会的望ましさと類似性がきょうだいの魅力に与える影響を検討した。研究1より,きょうだいにおける対人魅力尺度は「交流因子」「信頼因子」「誇り因子」の3因子全15項目の構造であり,高い信頼性があることが示された。研究2では,先行研究より,性格の社会的望ましさの方が性格の類似性よりもきょうだいの魅力に与える影響が大きいという仮説をたて検討を行った。その結果,仮説を支持する結果が得られ,きょうだい関係においても類似性の効果よりも社会的望ましさの効果の方が魅力判断における影響が大きいという,これまでの知見と一致する結果が得られた。
著者
町田 健一
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.52, pp.1-15, 2010-03-31

今日,キリスト教主義学校には,高いレベルの学問的学びとともに,キリスト教倫理・価値観に根ざした生き方の学びが期待されている.とりわけ「生命の尊厳」「人権」「生き方」「人を愛するということ」の教育を重要課題とするキリスト教主義学校において,それらを最も具現化する教育が「性」の学びであり,それはまた,子どもたちの人生を大きく左右する課題である.性教育については,多くの教員が避けたがる現実があるが,キリスト教学校教育として世の中の動きに抗して,子どもたちを救済し,より良い道に導くかは,待ったなしの研究課題である.2009年6月に,中等教育レベルのカトリック学校120校,キリスト教学校104校に調査用紙を郵送し,宗教主事等のキリスト教教育の責任者にキリスト教主義学校としての性教育の現状を尋ねた.主要な問いは,(1)聖書科の教員は,聖書科の授業において,どのように性教育に携わっているか,(2)他の教科の教員たちと,性教育ではいかに連携をとっているか(指導的な立場を取っているか),(3)キリスト教主義学校としての性教育のあり方にどのような見解・態度で臨んでいるか,である. キリスト教学校52校(同50%),カトリック学校52校(回収率43%)から回答を得た.調査の結果,聖書の授業,宗教的なプログラムにおいて,キリスト教倫理に基づく系統的な性教育の内容が組まれているケースは非常に少なかった.キリスト教主義学校の現実は,性教育を行う保健体育の教員,養護教諭,理科教員,家庭科教員,担任,カウンセラーの多くがnon-Christianであり,避妊,性感染症,エイズ教育等が中心テーマで,関連したキリスト教倫理・価値観の指導がほとんどの学校で組織的になされていない.聖書科教員,宗教主事等,宗教部に対して聖書科カリキュラムおよび学校の宗教的プログラムの中で積極的な取り組みが期待されている.
著者
斉藤 泰雄
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.60, pp.43-51, 2018-03-31

本論は,植民地教育論に関する研究ノートである。ここでは,欧米列強による植民地教育政策とその遺制に関する先行研究を分析整理するとともに,日本が戦前に領有していた台湾において50 年間にわたって展開した植民地教育の軌跡をたどり,その政策の特色を分析する。最初は住民の拒絶や無視という困難な状況で出発した教育事業は,しだいに台湾住民に受け入れられるようになる。1919 年の台湾教育令によって整備された教育制度は,内地人(日本人)と台湾人の教育の分離,差別的待遇を温存するものであった。しかし,1922 年の新教育令による制度改革は,内地延長主義の原則にしたがい,両者の教育上の差別待遇を解消し,中等教育以上での内台共学まで実現するという同時代の欧米諸国の植民地教育政策では類例をみない画期的なものとなった。最終的には,植民地における義務教育の実施という先例のない政策も導入されるにいたる。
著者
金 明煕 呉 恵卿
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.62, pp.1-20, 2020-03-31

本稿の目的は,恩を施してくれた相手に対する感情的負債がある特定の場面で,韓国語学習者が韓国 の社会及び文化が持っている特殊性を理解し,語用論的な失敗なく,状況や場面に応じて適切な韓国語 の感謝表現を使用できるよう手助けすることである。感謝はそれ自体で連鎖的行為であり,言語的・非 言語的リソースを通して行われる。本稿では,言語的手段を通して伝達される感謝行為を感謝表現と定 義し,文化的に普遍と考えられる感謝行動が日本と韓国においてどのように表れているのかを社会言語 学の観点から分析,考察する。これまでの先行研究では,感謝ストラテジーが場面や状況に応じてどの ように異なって表れているのかについては,具体的な記述や分析が行われていない。しかし,ストラテ ジーは場面や状況に応じていつでも流動的に修正,変更される可能性があり,各場面に適切な戦略を使 用できない失敗は韓国語を勉強する学習者の語用論的な失敗に繋がることも排除できない。したがって 本稿では,社会的地位,親疎関係,負担程度など,様々な社会的要因を考慮した談話完成テスト(Discourse Completion Test,以下 DCT)を行い,DCT で抽出されたストラテジーの類型が集団・場面・社会的要因 によってどのように用いられているのかに重点をあて分析,考察を行っている。 The aims of the research are to help Japanese students who study Korean language to understand the uniqueness of the language in the situation of gratitude, a specific situation where speakers feel burdened emotionally, and to use the appropriate expressions in the situations in Korean without pragmatic failure. Gratitude is a speech act that occurs in a chain discourse. It can be performed with/through language and/or non-language resources. This research analyzes the common points and differences of the speech act in situations of gratitude between university students in Korea and Japan. Previous literature in this area in comparative sociolinguistics between Korea and Japan has not included an adequate description of the differences in the strategies used by both speech communities for showing gratitude in a variety of situations. The strategies, however, can be modified by circumstances in each culture. Failure to use the appropriate strategies can cause pragmatic frustration for Korean learners in Japan. This research employed a DCT reflecting factors of social status, degree of intimacy and degree of burden. The interaction of culture, situations, and social factors as well as the differences in expressions of gratitude in Korea and Japan were analyzed.
著者
松岡 弥生子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.62, pp.111-118, 2020-03-31

文科省によるグローバル人材育成推進を目的とした英語力評価及び入学者選抜における資格・検定試 験の活用促進は,大学の一般英語授業の内容や評価指標に少なからぬ影響を与えている。中でも TOEIC は,企業や就職活動との関連性が強いことから,多くの高等教育機関において正課および課外のカリキュ ラムに取り入れられている。本論では,TOEIC の一般英語授業への適用方法や学習効果を考察するため, 2 年生必須のビジネス英語(授業 A)と 3 年生の選択英語ライティング(授業 B)の 2 つの授業を取り あげ,省察と検証を行う。各授業のとTOEIC との関係性と評価方法,取り入れた問題の具体的な内容 等を報告する。特に授業 A については,TOEIC 対策問題の授業内導入に対する学生の受け止め,モチベー ションなど,学習者アンケートの結果,および事前事後のミニ模試の結果もふまえて,低習熟度クラス への外部検定試験の導入に対する問題点を探る。 Now that the term globalization is sweeping across Japan, Ministry of Education, Culture, Sports and Technology Japan (MEXT) is aggressively promoting the use of foreign language (FL) proficiency tests to foster human resources with high-level FL competence. Many of Japanese universities and colleges are mainly focusing on TOEIC (Test of English for International Communication) because of its strong relation to job market requirement and its pervasiveness in Japan's society. They are offering TOEIC preparation courses in both regular curricula and extracurricular activities. Moreover, as the test spreading more and more widely, the influence of TOEIC on ordinary English courses may become significant, in terms of content, activities, purposes, and assessment. The present research notes report on the application of TOEIC in regular skill-based English courses and discusses the feasibility and effectiveness of implementing language proficiency tests in higher education. Two English classes discussed in this paper are a compulsory business English course for sophomores (Class A) and an academic English writing course for juniors and seniors (Class B). The paper examines their relationship with TOEIC, the inclusion of materials and content of TOEIC, and effects of the application of TOEIC.
著者
西村 幹子
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.62, pp.147-155, 2020-03-31

本稿は,グローバル化の影響を受けて変化する高等教育において,高等教育の市民性の醸成という社 会的な役割に焦点を当て,アメリカの 4 つのリベラルアーツ大学の先駆的な事例を分析する。具体的に は,教育プログラムの中にいかにグローバルなレベルの市民参加が統合されているか,またグローバル レベルの市民参加プログラムがどのようにデザインされ実施されているのかというリサーチクエスチョ ンを設定し,2018 年 2~4 月に 23 名の教職員への半構造化インタビューおよびドキュメント調査を実施 した。4 大学に共通して見られる特徴としては,組織主導,教員主導,学生主導の 3 つの意味において オーナーシップが共有され,多様な取り組みが行われているという点,救世主コンプレックスや文化的 観光に批判的な視点をもちながら教職員および学生のあり方を見直すような制度やプログラムが導入さ れている点,ローカルとグローバルの間を繋ぐ問題意識を意識的に学内に持ち込む取り組みがなされて いる点,大学の使命とその他の制度が連動している点が挙げられる。 This article aims at examining the social role of higher education to nurture global citizenship in the context of accelerated globalization. The research took the case study approach to 4 liberal arts colleges in the United States for the purpose of understanding the underlining perception and institution that support the innovative cases. In concrete terms, two research questions were posed: How do the colleges integrate civic engagement at the global level into the education programs?; and how do they design and implement the programs as an institution? The author conducted the semi-structured interviews with 24 faculty and staff members in total and analyzed the documents of four colleges in February-April, 2018. The study revealed four common characteristics across the four colleges, namely, 1) a combination of institution-led, faculty-led, and student-led approaches; 2) intentional programs that attempt to avoid savior complex and cultural tourism; 3) intentional integration of common issues that link the local level with the global level into various education, research, and training programs for faculty, staff, and students, and; 4) consistency in university mission and the institutional, educational, and financial measures to enhance civic engagement at the global level. In sum, various actors are collaboratively promoting the concept of global citizenship in education, training, research, and service with shared ownership, with the different degrees and dynamics across the four colleges.
著者
キング アリアナ
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.57, pp.157-166, 2015-03-31

正確で倫理的なメディア環境の追求には,メディアリテラシーだけでは十分ではない。メディアリテラシーは現在のメディアの問題を明らかにする上では非常に重要だが,「メディア能力」の高い社会であっても,非倫理的なメディアに立ち向かうメカニズムがなければ,その能力は制限される。この研究の目標は,メディアリテラシーを学ぶ者に,メディアの倫理性を評価するメカニズムを提案することである。Time Warner,News Corp 等のメディア会社の世界的な拡大と,それに伴う経済的・政治的権力の集中化を考察すると,メディアに投影される意見の多様性の減少が認められる。メディアの右派と左派の分極化や広告費への依存が高まった結果,メディア倫理は社会における重大な問題となりつつある。マス・ニュース・メディアを中心とした,グローバルメディア倫理学の重要性について語り,グローバル・メディアの倫理コードを提案し,メディア倫理への違反行為を分析するフレームワークを紹介する。In the ongoing pursuit of an environment of accurate and ethical media, media literacy alone is insufficient. Media literacy education is of paramount importance in bringing attention to the ethical conundrums facing today’s media. However, a media literate society is extremely limited without a mechanism to confront the “unethical” in the media. This study’s main purpose is to provide a mechanism for students of media literacy to evaluate media ethicality. Considering the global expansion of mass media corporations like Time Warner and News Corp, and the subsequent concentration of their financial and political power, there is a narrowing of the diversity of opinions being represented in the mass media.Moreover, there is an observable polarization of right and left-wing media, and with fewer willing to pay for news services, the mass media is dependent on advertising revenue. As this study postulates, the current state of mass media is characterized by an inclination to appease media investors at the expense of media consumers. This tendency to prioritize financial and political self-interest above all else is the very definition of a media ethics conundrum. Yet, while media literacy education plays an important role in revealing the financial and political bias of the mass media, recognition of the “unethical” alone is not enough to enact change. Focusing specifically on mass news media, this paper asserts the importance of discourse concerning global media ethics. A code of global media ethics is proposed, as well as a framework for evaluating potential breaches of ethics in the media which can be applied in future media literacy education. Through introducing a global media ethics code and a media ethics framework to the media literacy curriculum, it is anticipated that media literac students will be empowered to more actively enforce ethical reporting of the mass media.
著者
宮添 輝美
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.60, pp.1-17, 2018-03-31

本稿は,語学に特化したMOOC(略称LMOOC:massive open and online courses designed specifically for language learning)を英語カリキュラムに導入するための予備調査の結果を報告する。アンケート調査は2017 年7 月に東京を所在地とする大学の単一学部で行い,有効回答数70 を得た。対象サンプルは情報通信技術(ICT)のスキルが高い学習者グループである点に特徴をもつ。データ分析の結果, 1 )オープンな教育資源(OER)に関する知識と利用は浸透しているが,MOOCとLMOOCに関する知識・利用は開発途上にあること,また, 2 )学生のデジタル学習に対する期待が,従来の学習方法のイメージや経験により狭まっている可能性を認めた。付随して,本研究ではアンケート調査の質問法にスライダーを採用し,その機能性も検証しているが,3 )スライダーには妥当性ある統計処理の可能性が示唆された。結びに,LMOOCを用いた英語コースの設計に向けて,今後に期待される研究課題と実践研究を考える。