著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 森原 徹(MD) 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.88, 2011 (Released:2011-10-12)

【はじめに】前鋸筋は上位8~10肋骨から起始し、肩甲骨に付着する筋で上部、中部、下部線維に区分される。肩甲上腕リズムの観点からも肩甲骨運動に重要な筋であり、肩甲骨と胸郭との安定性にも関与している。上肢挙上時の肩甲骨運動と前鋸筋の機能に関する研究は多数あるが、前鋸筋の下部線維を対象としたものが多く、前鋸筋中部線維(以下、中部線維)に関する報告は少ない。本研究目的は肩関節屈曲、外転運動での中部線維の機能を筋電図学的に検証することである。 【対象と方法】 対象は事前に研究の趣旨を説明し、同意を得ることができた健常男性8名(平均年齢28.8±5.4歳、平均身長177.6±6.8_cm_、平均体重72.3±9.7_kg_)の右上肢とした。筋電計はmyosysytem1200(Noraxon社製)を用いた。中部線維の電極貼付位置はRichardら(2004)の方法に準じ広背筋と大胸筋の間で第3肋骨レベルに貼付した。運動課題は端坐位での上肢下垂位から肩関節屈曲と外転方向に30°毎挙上し120°まで各角度5秒間保持し、これを3回施行した。分析方法は3回の平均値を個人データとし上肢下垂位の筋電図積分値を基準に運動方向ごとに各角度での筋電図積分値相対値(以下、相対値)を算出した。次に_丸1_各運動方向における角度間での分散分析(tukeyの多重比較)、_丸2_角度ごとでの屈曲と外転間での対応のあるt検定にて比較した。 【結果】 中部線維の相対値は屈曲、外転方向ともに角度増加に伴い漸増傾向を示した。_丸1_屈曲では30°と比較して90°および120°において有意に増加した(p<0.01)。外転では30°と比較して120°において有意に増加した(p<0.05)。_丸2_各角度において屈曲と外転間での相対値には有意差は認められなかった。 【考察】 中部線維は第2,3肋骨から起始し、肩甲骨内側縁に付着し肩甲骨の外転作用を有する。肩関節屈曲、外転運動における肩甲骨運動について我々は座標移動分析法(2008)を用いて検討したところ肩甲棘内側端は屈曲では120°まで外側方向に外転では90°まで内側方向へ90°以降外側方向へ移動することを報告した。このことから肩関節屈曲における中部線維の機能は肩甲骨の外転運動に関与したと考えられる。一方、肩関節外転では肩甲棘内側端は内側方向へ移動することから中部線維の肩甲骨外転作用に対して肩甲骨運動は拮抗している状態である。しかし、中部線維の相対値は肩関節屈曲と有意差を認めなかったことから肩関節外転における中部線維の筋活動は肩甲骨運動に関与するのではなく、肩甲骨と胸郭との安定性に関与したと考えられた。また、肩関節外転120°で有意に相対値が増加したことは肩甲棘内側端が内側から外側方向へ移動が転換される角度であり、中部線維は肩甲胸郭関節の安定から肩甲骨運動に機能転換されることが示唆された。