著者
乾 亮介 森 清子 中島 敏貴 西守 隆 田平 一行
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.19, 2011 (Released:2011-10-12)

【目的】摂食・嚥下機能障害患者に対してのリハビリテーションにおいて理学療法は一般的に嚥下に関わる舌骨上筋群の強化や姿勢管理などを担当する。嚥下筋は頸部の角度や脊柱を介して姿勢アライメント等から影響を受けることが指摘されており、頸部のポジショニングにおいていわゆる顎引き姿勢(chin-down)や頸部回旋による誤嚥予防や嚥下量の増大などの口腔咽頭の解剖学的変化による有効性については緒家らの報告がある。しかしいずれも体位や、嚥下する物性を変えた研究が殆どであり、頸部角度に注目した報告は少ない。そこで今回は頸部角度の違いが嚥下時の舌骨上下筋群及び頸部筋の筋活動に与える影響について検討した。【方法】対象者は口腔・咽頭系及び顎の形態と機能に問題がなく、頚椎疾患を有さない健常男性5名(年齢29.8±4.4歳)とした。被験者の口腔にシリンジにて5ccの水を注いだ後、端座位姿勢で頸部正中位、屈曲40°、屈曲20°、伸展20°、伸展40°の各姿勢で検者の合図で水嚥下を指示した。この時飲み込むタイミングは被験者に任せ、検者は被験者の嚥下に伴う喉頭隆起の移動が終了したことを確認し、測定を終了した。また嚥下後に嚥下困難感をRating Scale(0=difficult to swallow 10=easy to swallow)で評価した。表面筋電図は嚥下筋として舌骨上筋、舌骨下筋を、頸部筋として胸鎖乳突筋で記録した。記録電極はメッツ社製ブルーセンサーを電極幅20mmで各筋に貼付し使用した。 筋電計はノラクソン社製Myosystem1200を用い、A/Dコンバータを介してサンプリング周期1msにてパーソナルコンピューターにデータ信号を取り込んだ。取り込んだ信号はソフトウェア(Myo Research XP Master Edition1.07.25)にて全波整流したのちLow-passフィルター(5Hz)処理を行い、その基線の平均振幅+2SD以上になった波形の最初の点を筋活動開始点、最後の点を筋活動終了点とし、嚥下時の各筋のタイミング及び筋活動持続時間(以下持続時間)と筋積分値を求めた。解析方法は持続時間と筋積分値の頸部位置における比較は反復測定分散分析を用い、多重比較はTukey-Kramer法を用いた。またRating Scaleと頸部位置における関係についてはFriedmanの検定を用い、有意水準はいずれも5%未満とした。【説明と同意】全ての被験者に対して研究依頼を書面にて行い、本人より同意書を得た後に実施した。【結果】舌骨上筋では屈曲40°、20°、と比較して伸展40°で有意に持続時間、筋積分値は高値を示したが(p<0.05)、が舌骨下筋、胸鎖乳突筋では有意差を認めなかった。またRating Scaleにおいては頸部角度により有意差(p<0.05)を認め、頸部が伸展位になるほど嚥下困難感が増強する傾向がみられた。【考察】嚥下における表面筋電図測定については各筋の持続時間が評価の指標として有用であるとVimanらが報告しており、加齢とともに嚥下時の持続時間は延長するとしている。またSakumaらの報告では嚥下時の舌骨上筋と舌骨下筋の持続時間と嚥下困難感(Rating Scale)には有意な負の相関があると報告しており、嚥下筋の持続時間の延長は嚥下困難の指標になると考えられている。従来、頸部伸展位は咽頭と気管が直線になり解剖学的位置関係により誤嚥しやすくなると言われており嚥下には不利とされてきた。今回は筋活動において伸展40°で持続時間の延長を認め、自覚的にも嚥下が困難であった。また筋積分値においても有意に高値であったことは努力性の嚥下になっていることが考えられ、頸部伸展位は筋活動の点からも嚥下に不利であることが示唆された。このことより、摂食・嚥下機能障害患者に対して頸部屈曲・伸展の可動域評価及び介入が有用であると考えられた。【理学療法研究としての意義】頸部の屈曲・伸展の位置により嚥下時の筋活動は影響を受けることから摂食・嚥下機能障害のある患者において 頸部可動域評価及び介入の有用性が示唆された。
著者
土井 剛彦 牧浦 大祐 小松 稔 小嶋 麻有子 山口 良太 小野 くみ子 小野 玲 平田 総一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.30, 2009

【目的】転倒に対する恐怖は、高齢者において身体活動量低下を引き起こす要因の一つであり、身体機能や健康関連QOLなどの心理面と強く関連する。一方、身体活動量は、高齢者の全身状態・身体機能を反映し、個別特性を考慮する上で重要とされているが、ある程度の身体活動量を有していても、一定の割合で転倒に対する恐怖を持っている人は存在する。つまり、身体活動量が高い者と低い者では転倒恐怖感に対する要因が異なると考えられるが、その関係は明らかとなっていない。本研究の目的は、転倒恐怖の有無に、健康関連QOLがどのように関連するかを、身体活動量を考慮した上で検討することである。【方法】対象者は地域在住女性高齢者312名とした (年齢 : 79±7.2歳)。転倒恐怖感は質問紙にて転倒恐怖感ありと返答したものを転倒恐怖感あり群 (Fear of falling : FF) 、転倒恐怖感なしと返答したものを転倒恐怖感なし群 (No fear of falling : No-FF) とした。身体活動量は生活習慣記録機 (Lifecorder EX, Suzuken) を一週間装着して一日平均歩数 (Physical activity : PA) を算出し、PAが対象者全体の中央値より高い者を高活動群、低い者を低活動群とした。その他の測定変数はTime up & Go (TUG)、年齢、BMIとした。健康関連QOLについては、SF-36を用いて測定し、国民標準値を50点とするスコアリングを行い下位尺度別 (身体機能 : PF, 身体的日常役割機能RP, 身体の痛み : BP, 社会的生活機能 : SF, 全体的健康感 : GH, 活力 : VT, 精神的日常役割機能 : RE, 心の健康 : MH) に算出した。統計解析は、群間比較をunpaired t testにて行い、転倒恐怖の有無を目的変数、QOLの下位尺度と調整因子であるTUG、年齢、BMIを独立変数とし強制投入した名義ロジスティク解析を活動群別に行い、統計学的有意水準を5%未満とした。【結果】FF群は124名(60% ;78.4±7.5歳)、No-FF群は188名(40%;79.3±7.0歳)であり、年齢、身長、体重、TUGの対象特性に有意な群間差はみられなかった。身体活動量は対象者全体では5750±3467歩 (中央値:4990歩)であり、低活動群の方が高活動群に比べ、転倒恐怖有する者の割合が高かった (高活動群;54%, 低活動群;66%)。FF群はNo-FF群に比べPA、SF-36の下位尺度全項目ともに有意に低値をとった。転倒恐怖の有無に対して有意に関連性の認められた項目は、高活動群ではPF (オッズ比;14.6)、GH (オッズ比;74.7) が、低活動群ではBP (オッズ比;9.8) であった。以上のことから転倒恐怖に関連する健康関連QOLの要素が身体活動量レベルにより異なることが示唆された。【考察】転倒恐怖によりPA、健康関連QOLがともに低下し、高齢者の健康を阻害する要因の一つであることが示唆された。また、高活動の者においては身体機能や健康状態が、低活動の者においては身体の痛みが、転倒恐怖感と強く関連した。つまり、健康状態を低下させる転倒恐怖感を消失させるためには、個々の活動レベルを考慮した上で異なったアプローチを行う必要性があると考えられる。
著者
瀬川 栄一
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.108, 2009

【はじめに】2009年5月22日~31日においてFINA Water Polo World League 2009 アジア大洋州ラウンドが開催された。日程の詳細としては、5月22日~24日-オーストラリアラウンド(アデレード)、5月28日~31日-ニュージーランドラウンド(オークランド)であった。この大会に伴う14日間の水球日本代表チームの遠征・合宿に帯同スタッフ(トレーナー)として参加したので、活動内容と水球選手の傷害特性について報告する。【方法】対象は本年4月に国立スポーツ科学センターにおいて行われた代表選考会により選出され、本遠征に参加した男子選手13名、女子選手13名の計26名。男子平均年齢22.6歳(17~28歳)、女子平均年齢20.5歳(19~24歳)。各選手の対応時に問診表を配布し主観的な疲労・疼痛部位と強度(3段階)を記入した。遠征をとおしての活動内容は1)チームスタッフの医事管理2)選手のケア・コンディショニングおよびリハビリテーション3)ゲーム中の急性外傷等の対応4)傷病者の現地医療機関への付き添い5)チームの雑務などを行った。また、処置内容と外傷を施術後にトリートメントログとして記録した。それらの記録より水球選手の1)主な疲労部位、2)疼痛部位、3)ゲーム毎の外傷、を抽出し種類・発生要因等について検討した。【結果】本遠征において行ったゲーム数は大会6試合と練習試合4試合の合計10ゲーム。コンディショニングの対応者は26名の選手全員を対象とし総対応数が115件。処置内容はマッサージ64件、アイシング15件、ストレッチング13件、超音波11件、テーピング5件、マイクロカレント5件、徒手療法2件(重複例あり)であった。主な疲労部位として訴えが最も多かったのが肩甲帯・腰部各12名、次いでハムストリングス8名、頸部6名、前腕部・背部各5名であった。疼痛部位については腰部4名、頸部・肩甲帯各3名であった。疲労・疼痛部位はともに一部の選手が重複例となる結果を示した。外傷については一試合平均0.8件(練習試合含む)であった。【考察】 遠征を通して重篤な疾病や外傷が発生することなく終えることができ、日本代表として大会史上初のスーパーファイナル進出という結果を得たことから成功裏に終えたのではないかと考える。コンディショニングにおいては腰部・肩甲帯の疲労や疼痛が多く訴えられ、水球競技の特徴的な動作の巻き足とスカーリングの影響からではないかと考えられた。投球動作の影響による疼痛を予測していたが投球側の肩の痛みを訴える症例はいなかった。そして、激しいコンタクトによる外傷の多さがあらためて確認できた。また、疲労の蓄積が疼痛に変化した選手を確認でき主観的な疲労強度と疼痛の関係を再考する課題を得た。
著者
下村 祐介 南條 千人 熊崎 大輔 大工谷 新一 高野 吉朗
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.31, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】 運動プログラムを立案する際に筋力増強訓練と有酸素運動を組み合わせることが多い。先行研究では血液検査を用い、筋力増強訓練後に有酸素運動を実施した方が筋力強化に対し効果的であるという報告もある。今回の研究目的は、筋力増強訓練と有酸素運動の実施順序を変える事により、筋力および心肺機能に対してどのような効果の違いを明らかにする事とした。 【対象者と方法】 対象は、研究の説明を受け、同意書に署名した実験上支障が無いと判断された成人男子10名(21.1±0.3 歳)20脚である。運動期間は4週間とし、運動期間の間は2ヶ月間の無運動期間を設けた。有酸素運動(Aerobics training以下、AT)後に筋力増強訓練(Muscle training以下、MT)を行った期間をAM期とし、MT後にATを行った期間をMA期とした。MTは、下肢筋力強化マシンを用い、膝伸展運動を実施した。運動負荷量は、膝関節60度屈曲位での等尺性収縮にて測定した最大膝伸展筋力値(100%MVC)の70%とした。ATは自転車エルゴメーターを用い、運動強度はカルボーネン法を使用し、目標心拍数を50%に設定した。筋力増強の効果判定は大腿周径、最大膝伸展筋力を測定すると同時に、表面筋電図にて大腿直筋、外側広筋の筋積分値(IEMG)を測定した。ATの効果判定はトレッドミルを使用し、呼吸代謝モニターにて最高酸素摂取量(peak VO2)を測定し、AT Windowデータ解析ソフトを用い解析した。統計解析は、大腿周径、最大膝伸展筋力、IEMG、peak VO2についてAM期、MA期での運動実施期間の開始時と終了時の値を各々対応のあるt-検定にて比較した。 【結果】 大腿周径及び最高酸素摂取量はAM期、MA期とも有意差を認めなかった。IEMGは、AM期、MA期各々285.6±171.5V・Sから316.0±248.9V・S、318.8±174.5V・Sから347.3±196.1V・Sと増加したが有意差は認めなかった。膝伸展筋力はAM期に232.3±46.4Nmから209.9±46.0Nmへと低下傾向を認め、MA期は221.7±54.1Nmから276.2+53.8Nmへと有意な増加を認めた(p<0.01)。 【考察】 心肺機能はAM期、MA期ともに有意な効果は認めなかったが、筋力はMA期で増強が認められた。今回の筋力増強は大腿周径に変化はなく、IEMGが増加傾向を示したことから、運動単位動員数の増加によるものであると考えられた。先行研究では、筋力増強訓練の前に有酸素運動を行うことで、筋力増強に必要な成長ホルモンの分泌を抑制するという報告もあり、今回AM期と比較してMA期に筋力増強効果が得られたと考えられた。
著者
和田 治 建内 宏重 市橋 則明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.9, 2009 (Released:2009-09-11)

【目的】 身体回旋動作は,日常生活やスポーツにおいて頻回に用いられる。身体回旋動作では,骨盤や脊柱に回旋以外の運動が運動連鎖として生じるとともに,回旋側に重心が移動すると考えられている。したがって,重心位置に近い骨盤や脊柱の運動連鎖は重心移動に大きな影響を与えることが予想される。しかし,身体回旋動作における骨盤や脊柱の運動と重心移動の関連性に関する報告は認められない。本研究の目的は,身体回旋動作における骨盤および脊柱の運動連鎖と側方重心移動量の関連性を明らかにすることである。 【方法】 対象は,書面にて本研究への参加に同意の得られた健常成人男性17名(23.3±2.9歳, 全例右利き)とした。測定課題は立位での身体回旋動作とした。開始肢位は,両足部踵骨中心間を対象者の足長とし,足角は10゜に規定した。また,動作中は両手を腹部の前で組ませた。対象者には,3秒間の静止立位の後,3秒間で後方へ身体を回旋し3秒間で正面に戻る動作を左右交互に3回ずつ行わせ、左回旋3回の平均値を解析に用いた。計測には三次元動作解析装置 (VICON社製)を用い,身体回旋動作時の側方重心移動量(+; 回旋側)を算出し,各被験者の足長で正規化した。次に,対象者の側方重心移動量の平均値を求め,その平均値より側方重心移動の大きい群(以下; L群)と小さい群(以下; S群)に分けた。また,動作時の骨盤と脊柱(胸郭と骨盤の角度変化量の差)の矢状面/前額面/水平面での角度を求め,各々について静止立位時から最大身体回旋時の角度変化量を算出した。対応のないt検定を用いて,骨盤および脊柱の角度変化量を2群間で比較した。有意水準は5%とした。 【結果】 身体回旋動作時の側方重心移動量は平均11.3±12.7%であり,L群は19.2±11.6%,S群は2.5±6.9%であった。骨盤の運動では,L群はS群と比較して,前傾角度変化量が有意に大きかった(L群;3.0±3.9°, S群;-1.1±3.3°, p < 0.05)。前額面・水平面では有意な差は認められなかった。また脊柱の運動では,L群はS群と比較し,屈曲角度変化量が有意に小さく(L群;1.4±6.2°,S群;8.5±4.5°, p < 0.05),回旋角度変化量が有意に大きい結果となった(L群;34.9±4.8°, S群;28.5±7.4°, p < 0.05)。前額面では有意な差は認められなかった。 【考察】 今回の結果より,身体回旋動作時に側方重心移動量の大きい群では,小さい群と比較して,脊柱回旋角度が大きく、同時に骨盤前傾が大きく脊柱屈曲が少ないことが明らかとなった。回旋側への大きな重心移動を伴う回旋動作では,運動連鎖として,骨盤前傾が脊柱屈曲を減少させ回旋可動性を増大させていると考えられる。一方,骨盤後傾を伴う回旋動作では,回旋に伴う脊柱屈曲の増加により脊柱への力学的ストレスが増大し,障害発生につながる可能性があると考えられる。以上より,身体回旋動作を伴う動作において回旋側への重心移動を促すためには,骨盤を適度な前傾位で保持し,脊柱の屈曲を少なくしながら回旋させることが重要であると考えられる。
著者
岩城 隆久 嘉戸 直樹 伊藤 正憲 藤原 聡 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.4, 2008

【目的】運動学習は、結果の知識(KR)によって学習効果に影響することが報告されている。我々は第43回日本理学療法学術大会で、運動学習の練習終了後のテストにおいて、2試行に1回の言語的KR付与の練習が学習効果を認めることを報告した。今回、この先行研究の結果より練習中の学習戦略について検討した。<BR>【方法】対象は本研究の参加に同意を得た健常人23名(男性16名、女性7名、年齢25.3±2.1歳)とした。本研究では握力学習を試行した。被験者は、利き手最大握力の50_%_握力を目標値とした。KRは目標値の上下2_%_誤差範囲を正答KRとし、その範囲内の試行で「正答」、正答KRより低い値は「下」、高い値は「上」という言語的KRを用いた。全学習試行にKRを付与する群(100_%_KR)、2試行に1回KRを付与する群(50_%_KR)、3試行に1回KRを付与する群(33_%_KR)、KRを付与しない群(0_%_KR)に被験者を無作為抽出した。実験は学習前試行、学習試行、学習後試行の順で行った。学習試行では、群分けのKR付与頻度に応じて10試行を1セットとし計3セット実施した。測定はデジタル握力計GRIP-D(竹井機器工業株式会社)を使用し、文部科学省の体力測定における握力測定法に準じて実施した。学習試行中の目標値と実測値のずれとしてRoot Mean Squared Error(RMSE)を算出した。RMSEが目標値に対するパーセンテージとなるようNormalize Root Mean Squared Error(NRMSE)への正規化を行い、学習試行の各セットにおいて群間比較した。<BR>【結果】各セットのNRMSEは次の結果を示した。第1セットは0%KR(31.6±18.6)に対して100%KR(10.6±2.6)は低下を認めた(p<0.05)。第2セットは0_%_KR(33.2±7.4)に対し100_%_KR(9.3±3.4)、50_%_KR(10.1±2.7)、33_%_KR(10.1±3.0)は低下を認めた(p<0.01)。第3セットは0_%_KR(29.1±9.2)に対し100_%_KR(7.5±4.2)、50_%_KR(12.6±6.9)、33_%_KR(10.6±1.9)は低下を認めた(p<0.01)。<BR>【考察】言語的KR付与の頻度は、学習戦略に影響を与えることを示唆した。学習初期は内的基準の修正にKRが使用され、試行回数が増加するにつれて、内部モデルの強化のためにKRが有効的に使用される。しかし、100%KRのようにKRが高頻度であるとKRに依存的になり、学習において重要とされる内部モデルの強化は乏しくなると考える。Salmoniらのガイダンス仮説やSwinnenの内部フィードバックへの注意と学習の関係からも同様のことが示されている。<BR>【まとめ】言語的KRの頻度は学習過程に影響し、付与頻度による戦略の違いが運動学習に影響を及ぼすことが示された。
著者
中井 秀樹 堀江 直人 矢越 智幸 日高 憲司 堀 竜次
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.79, 2009

【はじめに】臨床において、誤嚥性肺炎の繰り返しから離床機会が遅延してしまう症例を経験する。今回、離床を進めていく上で他職種との共通理解を深め、得られた情報から問題点を列挙し再考察を行い、適切なポジショニングや呼吸管理方法を統一して行なうことで、肺炎症状を予防し、離床頻度を増やすことが出来た症例を経験したので報告する。【症例紹介】64歳女性。右中大脳動脈の動脈瘤破裂によるくも膜下出血・右脳内出血・脳室内穿破を認め、同日開頭血腫除去術・クリッピング施行。発症後2日目、緊急外減圧手術(右頭蓋骨除去、右脳室ドレナージ)発症後2ヶ月目、シャント術施行。活動レベルは全介助の寝たきり状態であり、ベッド臥床時適切なポジショニングが十分に行われていなかったことで頸部・骨盤のアライメント不良を呈し、努力呼吸が見られ唾液の誤嚥による肺炎症状を繰り返すといった悪循環に陥っていた。尚、本症例の発表について御家族に趣旨を説明し同意を得た。【方法】他職種(看護師、介護士)と打ち合わせを行い、開始から4日間は吸引や体位変換施行時に誤嚥の評価項目として吸引の回数・部位、体位、痰の粘性・色について毎日記録を行ってもらい、5日目以降は適切なポジショニング方法(主に頸部・骨盤アライメント)、体位変換時の誤嚥による注意点と吸引前に口腔内の観察、カフ上部の評価、頸部アライメント、聴診にて確認するという計画をたてて実施してもらうこととした。炎症所見として、CRP値については検査毎に変化を追った。呼吸状態の評価項目としては、覚醒、経皮的酸素飽和度、呼吸数、パターン、呼吸音、チアノーゼの有無を確認した。その後治療効果の判定、問題点の確認、アプローチの定期的な再検討を行い、1時間毎の訪床時に吸引実施の評価項目を追加していった。治療的介入として初日より、呼吸介助、排痰療法の他に姿勢筋緊張の調整とギャッチアップ座位練習を中心に実施した。【結果】平均吸引回数は介入初月19.5回±3.1回、1ヵ月後、10.6回±3回、2ヶ月後、13.7回±3.2回であり吸引回数の減少を認めた。CRPの変化においては介入前2.44±2.39と変動が大きく、その後5週平均は1.32±0.27と低値を維持出来た。覚醒状態としては、介入前GCS E3 V1 M3、介入後E4 V1 M4と覚醒レベルの向上もあった。経皮的酸素飽和度については、介入当初より96%で経過し、数値上での変化は見られなかった。呼吸数では、介入前平均回数24.25±1.26回、介入後20.75±1.26回となり減少を認めた。呼吸パターンとして介入後abdominal paradox patternが消失し、呼吸音でも著明な複雑音の消失、チアノーゼも認められなかった。【まとめ】理学療法単独での訓練では十分な効果が認められない症例でも、他職種と連携した評価を進め、定期的に評価項目やアプローチの再検討を行い、共通理解を深めていくことで誤嚥による肺炎症状の予防に繋がった。今後も先行的に他職種と協力し早期離床に繋げていきたい。
著者
山西 浩規 武部 恭一 田中 宏一 野村 一太 福原 良太 斉藤 洋輔 武政 誠一
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.57, 2007

【はじめに】骨化性筋炎とは筋挫傷に伴い、時に不適切な治療が原因で筋肉内に骨形成が起こり、局所の腫脹、自発痛、運動制限がみられる疾患である。今回、サッカー練習中に受傷した症例に対し競技復帰のために、疼痛の緩解と可動性の拡大を目的とした理学療法(以下PT)を行ったので報告する。【症例紹介】14歳男性。サッカー練習中に右大腿部を強打し受傷、その後接骨院で治療を受けていたが、1ヶ月経過しても疼痛が軽減せず、当院を受診した。X-P像の結果、右大腿部前面に異所性骨化が認められ、骨化性筋炎と診断した。本人及び家族の競技復帰への希望が強く、当日より当院にてPT(5回/週)を開始した。初診時、関節可動域(以下ROM)膝屈曲は自動で110°、他動で115°で大腿部前面に疼痛が認められた。膝伸展は他動0°であったが、extention lagが40°認められた。その他の関節には制限はなかった。徒手筋力検査(以下MMT)は右股関節屈曲、外転、膝関節屈曲が4レベル、伸展は2+レベルで疼痛があり、SLRも不可であった。また、歩行時に疼痛性跛行が認められたが、独歩可能であった。しかし、階段降段時に右大腿部の疼痛が強く一足一段では不可であった。大腿周径は特に左右差は認められなかった。PTプログラムは、疼痛の緩和を目的に温熱療法と超音波などの物理療法、関節ファシリテーション(以下SJF)、ROM運動や筋力増強運動を行った。骨化性筋炎では、過度な抵抗運動や他動運動では、筋に対してストレスがかかり、再出血が生じ、骨形成につながる可能性があるため、ROM運動や筋力増強運動時は疼痛自制内で自動運動のみ実施した。また、全身バランスの調整を目的にバランスボードを行った。また、完治するまで、サッカーの練習は中止とした。PT実施1週目で、ROMが自動で膝屈曲115°、膝伸展‐20°、SLR30°まで改善し、5週目で、ROMは膝屈曲150°、膝伸展0°、SLR90°、MMTも5レベルとなり、疼痛も軽減され階段降段も一足一段で可能となった。約8週目でジョギング許可、9週目よりボールを用いた練習を取り入れ、11週目で競技復帰も許可し、試合に出場可能となった。X-P像では骨化像の消失、増大傾向は見られなかった。【考察】今回の症例は物理療法やSJFを用いて疼痛を抑制し、疼痛自制内でPTを行うことで、疼痛の緩解、筋の伸張性が向上した。その結果、ROM改善につながったと考えられる。しかし、本症例は異所性骨化が残存していることから、サッカー復帰後も、クラブの指導者などと連携して経過の観察が必要だと考える。
著者
田中 利昌
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第50回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2010 (Released:2010-10-15)

【目的】 パーキンソン歩行の原因として左右の協調性運動障害が報告されている。さらに、パーキンソン患者に対して、エルゴメーター訓練を行った場合、協調性運動が行えない為にペダル駆動が障害されるとの報告もあることことから、歩行障害の原因には協調性運動が影響している可能性が考えられる。また、自転車エルゴメーター訓練によりすくみ足の改善が報告されているものもあり、ペダリング運動はパーキンソン歩行にも何らかの運動効果を与えると考えた。この実験ではパーキンソン歩行の分析とペダリング運動が与えるパーキンソン歩行への影響について調べ、自転車エルゴメーターの有用性を調べる事が目的である。 【方法】 自転車エルゴメーターを使用し時間5分の設定で毎週5回施行し、2ヶ月後に歩行に現れた変化を記録する。ペダル回転数/分の設定はしない。原疾患による日内変動を考慮し、薬効時間が最大の時にUPDRSを基準とし、自覚症状を判断基準に入れながら変動の差が少ない時に、時間と歩数、さらに10m歩行を計測し歩容の変化を記録する。対象者の年齢、合併症等を考慮し、最大心拍数はKarvonen係数によってその値以下で行えるように負荷無しの状態とする。 【説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に対しては実験内容に関する十分な説明の上、同意の得られた者を対象として研究実施した。 【結果】 歩数・時間 対象者A 歩数41歩→32歩 時間23.19秒→15.22秒 対象者B 歩数40歩→33歩 時間20.91秒→16.67秒 対象者C 歩数33歩→30歩 時間15.77秒→15.41秒 重複歩距離 対象者A Rt40.00cm→50.90cm Lt40.00cm→52.30cm 対象者B Rt50.36cm→60.27cm Lt49.79cm→58.83cm 対象者C Rt58.14cm→67.69cm Lt60.43cm→67.76cm 足角 対象者A Rt11.80°→7.00°Lt27.00°→7.50° 対象者B Rt9.65°→9.69° Lt3.63°→3.35° 対象者C Rt20.35°→14.67° Lt15.13°→12.53° 歩容のバラツキ具合 3名共改善を示した 【考察】 今回の実験結果からは3名共に有意な差がみられた。左右対称の動きを常に同じ間隔で繰り返す事でペダル位置やクランクの距離を誤差修正しながら学習し、歩容に改善が見られるという結果に繋がったのではないかと考えられる。 パーキンソン歩行の原因は協調性障害等により、歩行中の重複歩距離を安定出来ない事である可能性が高く、今回の実験結果からは対象者には歩幅、重複歩に有意な変化が現れ、また一歩における歩容がそれぞれ安定した数値に近づいた為、自転車エルゴメーターはパーキンソン病における歩行障害を改善出来る一つの手段としては転倒リスクも少なく有用であると考えられる。 今後もまだまだ継続したデータ取得が必要であり、今回の結果についても全てのパーキンソン患者にも有用と当てはまるのか等についても症例を重ね検討していかなければならない。 【理学療法研究としての意義】 パーキンソン病は高齢者では100人に一人以上の割合で罹患する高有病率な疾患である。中脳黒質のドーパミン神経細胞が減少するため、線条体のドーパミン量が低下し、運動障害が生じる。運動障害の中で最も生活動作において影響の受けるものが歩行であり、歩行障害は患者の活動性を低下させ、歩行中の転倒の危険性を高める一因となる。また、患者本人には移動能力を奪うだけでなく、精神的負担を与えQOL低下にも大きく影響する。パーキンソン病の歩行を手軽にかつ安全に向上させる方法が普及すれば患者の大きなメリットとなる。
著者
久郷 真人 谷口 匡史 渋川 武志 岩井 宏治 平岩 康之 前川 昭次 阪上 芳男 今井 晋二
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.4, 2011

【はじめに】<BR> 皮膚筋炎(delmatomyositis:DM)は対称性の四肢近位筋・頸部屈筋の筋力低下、筋痛を主症状とし、Gottron兆候やヘリオトープ疹などの特徴的な皮膚症状を伴う慢性炎症性筋疾患のひとつである。臨床検査では血清筋逸脱酵素(creatine kinase;CK)やLDH、aldorase、尿中クレアチン排泄量が異常高値を示す。治療としては副腎皮質ステロイドが第一選択薬とされるが、長期投与により満月様顔貌、行動変化、糖耐能異常、骨密度低下、ステロイドミオパチー等の多彩な副作用を生じることも多い。また、近年運動療法の適応についても多数報告されており、その効果が期待されている。<BR>今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを呈した症例を経験したので報告する。<BR>【症例紹介および理学療法評価】<BR> 症例は43歳男性。2010年12月頃より右上腕部に筋肉痛・潰瘍出現、顔・頸部・対側上腕に皮疹が広がり、皮膚筋炎を疑われ精査目的にて当院入院となる。入院後皮膚生検・筋生検にて皮膚筋炎と診断され、ステロイド療法(prednisolone;PSL,60mg/day)が開始される。最大PSL120mg/dayまで漸増するもCK値低下遅延し免疫グロブリン療法(IVIG)施行。またPSL120mg/dayに増量後、副作用と思われる両下腿浮腫、満月様顔貌、および下肢優位のステロイドミオパチーと考えられる筋力低下の進行を認めたためCK値の低下に伴いPSLを漸減。<BR> 入院後15病日目より理学療法開始。開始当初よりCK高値(約6000IU/L)であり、易疲労性、筋痛、脱力感著明。筋力はMMTにて股関節周囲筋2~3レベル。HHD(OG技研GT300)を用いた測定では膝関節伸展筋力右0.96Nm/kg、左0.83Nm/kg、股関節屈曲筋力右0.3Nm/kg、左0.28Nm/kgであった。立ち上がり動作は登攀性起立様、歩行は大殿筋歩行を呈していた。6分間歩行は141mであった。また体組成分析(Paroma-tech社X-scan)を用いた骨格筋量/体重比では34.4%であった。理学療法では下肢・体幹筋の筋力増強を目的に、自動介助運動から開始。CK値の低下とともに修正Borg scaleを利用し自覚的疲労度3~5の範囲の耐えうる範囲で自動運動、抵抗運動と負荷量を設定し、翌日の疲労に応じて調節しながら行った。<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき、症例には今回の発表の趣旨を十分説明した上で同意を得た。<BR>【結果】<BR> 理学療法介入後4ヶ月時点では、CK値は116UI/Lまで低下。PSLは25mg/dayまで漸減し、筋痛は消失するも易疲労性残存。筋力はHHDにて膝関節伸展筋力が右0.92Nm/kg、左0.78Nm/kg、股関節屈曲右0.69Nm/kg、左0.71Nm/kgであった。立ち上がりは上肢を用いずに可能、歩行はロフストランド杖にてすり足、大殿筋歩行。6分間歩行は180mに増加した。体組成分析を用いた骨格筋量/体重比では29.4%であった。<BR>【考察】<BR> 今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを合併した症例を経験した。ステロイドミオパチーは蛋白の分解促進と合成抑制が起こり、特にtype_II_b線維の選択的萎縮を招くとされ、近位筋を中心とした筋力低下により難治例も多い。<BR> ステロイドミオパチーに対する治療は主にステロイドの減量である。一方で、近年ステロイドミオパチーに伴う筋力低下、筋萎縮の進行に対して運動療法は予防および治療手段として有効であるとされている。また、皮膚筋炎の場合、急激なステロイドの減量は筋炎症状の再燃を招き易く、これらの相反する治療方法から厳重な投与量管理および負荷量の設定が重要であるとされる。本症例において、CK値の正常化後も有意な上昇もなくステロイド減量が可能となり、筋力、骨格筋量の著明な低下を最小限に抑えられたことから、今回使用した修正Borg Scaleを用いた運動負荷量の設定方法および継続的な運動療法が有用であると考えられた。また、市川はステロイド減量による効果として10~30mg/dayに減量してから1~4ヶ月で筋力回復が認められると報告しており、本症例においては長期間の経過により廃用性の筋力低下も合併していることが考えられるため、今後も長期的な理学療法の介入が必要であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 皮膚筋炎およびステロイドミオパチーに対する理学療法において筋力低下の病態を考慮した上で、早期からの介入により運動機能の維持、向上に努め、長期的な理学療法の介入が必要であると考える。また運動療法効果についての報告は少なく、今後さらなる症例・研究報告が望まれる。<BR>
著者
大久保 優 梛野 浩司 岡本 昌幸 千葉 達矢 徳久 謙太郎 松下 祥子 岡田 洋平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.6, 2010

【目的】<BR> パーキンソン病(PD)患者では,発症早期より体軸内回旋の減少など体幹機能障害が起こり,その結果,歩行をはじめとした様々な日常生活動作が障害される。病期が進むと,脊柱の変形が生じ,呼吸機能や嚥下機能にまで問題が波及する症例も多く,体幹機能はPD患者のリハビリテーションを行う上で,非常に重要である。WrightらはPD患者と健常高齢者の体幹回旋の筋緊張を測定し,PD患者では有意に左右差が認められ,体幹筋の固縮に左右非対称性が認められたことを報告している。また,彼らはこの体幹筋の左右非対称性が姿勢や歩行障害に強く関与していると示唆している。これらのことから,PD患者の体幹機能を評価する上で,左右非対称性を捉えることが重要であると考えられる。しかし,PD患者の体幹機能を定量的に評価する指標は少なく,左右非対称性に着目した評価はほとんど見られない。<BR> 我々は定量的な体幹機能評価として,座位側方リーチテスト(Sit-and-Side Reach test; SSRT)を考案し,先行研究において,PD患者のSSRTの併存的妥当性について報告した。SSRTは左右各々の測定が可能であり,体幹機能の左右非対称性を捉えることができる可能性がある。そこで本研究では,SSRTの値およびその左右差を,健常高齢者とPD患者間で比較し,PD患者における体幹機能の特性について検証した。<BR>【方法】<BR> 対象は,PD患者19名(平均年齢69.6±9.0歳,男性12名女性7名,平均罹病期間6.5±5.1年,Hohen & Yahr(H&Y)stage 1:1名,2:2名,3:11名,4:5名)と年齢を一致させた健常高齢者16名(平均年齢68.8±8.6歳,男性5名女性11名)であった。全ての対象者は口頭指示を理解可能であった。腰痛や脊柱の手術の既往がある者は除外した。SSRTは,ハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定方法は,開始肢位を40cm台上端座位,上肢90°外転位とし,側方に最大リーチするように指示した。二回練習後一回測定を行い,その値をSSRTの測定値とした。また左右ともに測定し,左右の差の絶対値(左右差)についても算出した。PD患者の評価は,抗パーキンソン病薬服薬1.5~2時間後に統一した。統計解析は,Mann-WhitneyのU検定を用いてPD患者群と健常高齢者群の右側と左側SSRTの値およびその左右差について比較した。次にPD患者群の中から,既に脊柱の側彎など体幹の変形があるstage4の患者は除外し,stage3以下の患者群と健常高齢者群の右側と左側SSRTの値およびその左右差について比較した。<BR>【説明と同意】<BR> 全ての対象者には,研究の目的に関する説明を口頭にて行ない,自由意思にて研究参加の同意を得た。<BR>【結果】<BR> PD患者群では健常高齢者群と比較して左右とも有意にSSRTの値が低下していた。SSRTの左右差については有意差を認めなかった。stage3以下のPD患者群でも健常高齢者群と比較して左右とも有意にSSRTの値が低下していた。SSRTの左右差は,stage3以下のPD患者群が健常高齢者群と比較して有意に大きかった。<BR>【考察】<BR> Stage3以下のPD患者群と健常高齢者群の比較より,SSRTは軽度から中等度のPD患者と健常高齢者の差異を捉えることができ,比較的発症早期より体幹機能評価として有用であることが示唆された。また,stage3以下のPD患者群のSSRTの左右差が有意に大きかったことから,まだ著明な脊柱の変形がないPD患者では,側方のリーチ動作能力に左右差があり,体幹の可動性を含んだ体幹機能に左右非対称性を認めることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 客観的かつ定量的な評価にもとづき,長期にわたって体幹の可動性を維持することは,PD患者の身体機能やADLを維持する上で重要である。本研究結果より,SSRTはPD患者において,比較的発症早期から使用可能で,体幹機能の左右差を捉えることができる新しい定量的な体幹機能評価になり得ることが示唆された。今後はSSRTの継時的な変化について調査し,体幹の側屈変形の予測妥当性や左右差に影響を与える因子について検証する必要がある。
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 森原 徹(MD) 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.88, 2011 (Released:2011-10-12)

【はじめに】前鋸筋は上位8~10肋骨から起始し、肩甲骨に付着する筋で上部、中部、下部線維に区分される。肩甲上腕リズムの観点からも肩甲骨運動に重要な筋であり、肩甲骨と胸郭との安定性にも関与している。上肢挙上時の肩甲骨運動と前鋸筋の機能に関する研究は多数あるが、前鋸筋の下部線維を対象としたものが多く、前鋸筋中部線維(以下、中部線維)に関する報告は少ない。本研究目的は肩関節屈曲、外転運動での中部線維の機能を筋電図学的に検証することである。 【対象と方法】 対象は事前に研究の趣旨を説明し、同意を得ることができた健常男性8名(平均年齢28.8±5.4歳、平均身長177.6±6.8_cm_、平均体重72.3±9.7_kg_)の右上肢とした。筋電計はmyosysytem1200(Noraxon社製)を用いた。中部線維の電極貼付位置はRichardら(2004)の方法に準じ広背筋と大胸筋の間で第3肋骨レベルに貼付した。運動課題は端坐位での上肢下垂位から肩関節屈曲と外転方向に30°毎挙上し120°まで各角度5秒間保持し、これを3回施行した。分析方法は3回の平均値を個人データとし上肢下垂位の筋電図積分値を基準に運動方向ごとに各角度での筋電図積分値相対値(以下、相対値)を算出した。次に_丸1_各運動方向における角度間での分散分析(tukeyの多重比較)、_丸2_角度ごとでの屈曲と外転間での対応のあるt検定にて比較した。 【結果】 中部線維の相対値は屈曲、外転方向ともに角度増加に伴い漸増傾向を示した。_丸1_屈曲では30°と比較して90°および120°において有意に増加した(p<0.01)。外転では30°と比較して120°において有意に増加した(p<0.05)。_丸2_各角度において屈曲と外転間での相対値には有意差は認められなかった。 【考察】 中部線維は第2,3肋骨から起始し、肩甲骨内側縁に付着し肩甲骨の外転作用を有する。肩関節屈曲、外転運動における肩甲骨運動について我々は座標移動分析法(2008)を用いて検討したところ肩甲棘内側端は屈曲では120°まで外側方向に外転では90°まで内側方向へ90°以降外側方向へ移動することを報告した。このことから肩関節屈曲における中部線維の機能は肩甲骨の外転運動に関与したと考えられる。一方、肩関節外転では肩甲棘内側端は内側方向へ移動することから中部線維の肩甲骨外転作用に対して肩甲骨運動は拮抗している状態である。しかし、中部線維の相対値は肩関節屈曲と有意差を認めなかったことから肩関節外転における中部線維の筋活動は肩甲骨運動に関与するのではなく、肩甲骨と胸郭との安定性に関与したと考えられた。また、肩関節外転120°で有意に相対値が増加したことは肩甲棘内側端が内側から外側方向へ移動が転換される角度であり、中部線維は肩甲胸郭関節の安定から肩甲骨運動に機能転換されることが示唆された。
著者
大古 拓史 野々垣 政史 梶原 史恵 大川 裕行
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.112, 2007

【はじめに】 臨床実習 (以下実習) は,学内で学んだ様々なことを臨床現場で実際に実践する重要な科目である.実習を目前に控えた学生は,実習に対し大きな不安を抱いている.しかし,先行研究は,管理・教育という指導者側からの視点のものが多く,学生側からの視点のものは見あたらない.そこで,学生の実習に対する不安を少しでも解消すること,指導者に対して有益な情報を提供することを目的に実習中の実習生の身体的・精神的活動量を継続的に計測し,若干の考察を加え報告する.<BR>【方法】対象は理学療法学専攻4年実習生2名である.アクティブトレーサー (GMS社製AC-301) を使用し,実習中(7週間)のR-Rと加速度の変化を記録した.記録したR-R間隔の変動に対して周波数解析 (GMS社製MemCalc for Windows) を行い,心臓交感神経・副交感神経活動を観察し精神的活動量の指標とした.加速度は, x,y,z,3方向の合成加速を身体的活動量の指標とした.また,コントロールとして,各被験者の日常生活においても同様の計測を行った.各データ(心拍数,加速度,心臓交感神経・副交感神経活動)は,週単位の平均値を求め比較・検討を行った.なお,本調査は星城大学倫理委員会承認の元に行われた.<BR>【結果】被験者に共通して実習前半は後半と比較して高い心拍数を示した.後半のうちでも7週目の心拍数は高値を示した.交感神経活動は各被検者ともに1,2週目が高く,4週目が最も低かった.逆に副交感神経活動は4週目が最も高く,1,2週目は低かった.また,4週目の交感神経活動は,コントロール群の日常生活レベルに近い値を示した.身体的活動量は実習前半に比べ後半に高値を示した.さらに7週目は6週目に比較して有意に高値を示し,上昇し続ける傾向にあった.<BR>【考察】実習生は実習前半には精神的活動量が身体的活動量を上回る,いわゆる精神的過緊張状態にあり,実習中盤には精神的過緊張が緩み,日常生活での交感神経活動レベルに一致する.そして実習後半にやっと身体的活動量と心拍数が一致することが分かった.実際,実習4週目頃に実習指導者から「気の緩み」を指摘された事実も上記解釈を裏付けるものとなっていた.即ち,実習中盤は精神的緊張が緩む時期であり,実習中で最もミスが起こりやすい時期であると考えられる.実習生はもちろん,実習指導者にとっても注意が必要な時期である.実習生は,実習前半の精神的過緊張状態を少しでも緩和できるように,実習前に知識・技術を高めておく必要がある.実習指導者は,実習前半の実習生の精神的過緊張状態緩和に配慮し,実習半ばでの精神的緊張低下「気の緩み」に注意する必要がある.これらの情報を実習生,指導者双方が意識することでより効果的・効率的に実習をすすめることができる.
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.101, 2009

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。<BR>【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。<BR>【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。<BR>【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。<BR>【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
中田 加奈子 池田 耕二 山本 秀美
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2011 (Released:2011-10-12)

【はじめに】 高齢化社会を迎えた日本には認知症患者が200万人以上いるといわれており、理学療法の必要性は増している。その一方で認知症患者の理学療法は拒否や暴言、暴力等が原因で困難となる場合も多く、接し方や環境設定など様々な工夫が必要とされる。そのため臨床では症例ごとに理学療法における工夫やその効果を検討することが必要となる。 今回、強い拒否や暴言、暴力等が認められ、理学療法を進めていくことが困難であった2症例を経験したので考察を加え報告する。 【症例紹介】 症例1:60代、男性、診断名は多発性脳梗塞であった。コミュニケーションは困難であり長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)の測定は不可能であった。身体機能としては四肢に運動障害、中等度の関節可動域制限が認められ、基本動作は全て全介助であった。理学療法は基本動作の維持・向上を目的に進めたが、本症例は理学療法開始当初から拒否が強く、暴言、暴力があり関節可動域運動や基本動作練習は困難であった。そこで、家族にも理学療法への参加を促す、時間帯を変える、ときには担当以外の理学療法士(以下、PT)が実施するなどの工夫を取り入れた。しかし、大きな改善は認めなかったため、次はPT2人が同時に関わっていくことにした。具体的には1人は話しかけながら暴力を抑え、もう1人は関節可動域運動、端坐位練習を行い毎日関わり続けた。その結果、拒否や暴力は徐々に軽減するようになり理学療法を進めることができた。 症例2 :80代、男性、診断名は右大腿骨転子間骨折術後であった。コミュニケーションは困難でありHDS-Rの測定は不可能であった。しかし、発話内容からは病識の欠如、理解力の低下等があると考えられた。理学療法はトイレ動作の獲得を目的に進めた。理学療法開始当初、起き上りは全介助、端坐位保持は見守りにて可能であり拒否は見られなかった。しかし立位練習を始める頃から強い拒否がみられ始めた。そのため家族・他のスタッフと一緒に理学療法を促したが、大声で叫ぶ、唾を吐く、蹴るなどの暴力や拒否は続いた。そこで、家族の承諾のもと強く促しながら全介助にて端坐位や移乗練習を行った。その結果、徐々にトイレ時に自発動作が見られるようになったため、トイレ時に合わせて理学療法を行うようにした。1か月後、拒否は少なくなり、基本動作やトイレ動作等も見守りにて可能となった。 【考察】 一般的に強い拒否や暴言、暴力などがみられる認知症患者の理学療法は進めることが難しいとされている。その場合、説明をゆっくり繰り返すや暴力行為の背景を探っていく等が必要といわれているが、現実はうまくいくとは限らない。そのため現場では経験から患者に合わせて対応しているというのが現状である。したがって認知症患者に対する理学療法では症例ごとにアプローチを考え実践し、それらを検証していくことが必要といえる。 症例1では、暴力がみられる患者に対して1人のPTが抑えつつ、もう1人のPTが理学療法を実践するという形で行った。一般的に介助が大変な症例に対してPT2人が関わることは臨床ではよくあることだが、今回はPT2人が、それぞれの役割を分担したうえで同時に協力して介入した。ただし暴力を抑えるといっても力任せに抑え込むというのではなく、話しかけながらなだめる、あるいはPTに被害がでない範囲で抑えるといった感じである。その結果、理学療法が実施できるようになり坐位練習が継続できた。本経験を通して、PT2人が同時に関わるということは、暴力を抑えることができる点だけではなく、介入がスムーズにできるという点や認知症患者の評価やゴール設定を多角的に検討できるという点においても有効であると考えられた。 一方、症例2では家族承諾のもと、強い促しと自発動作に合わせた理学療法を行った。その結果、理学療法は進み患者の基本動作等は向上した。本経験からは、様々な介入を行っても改善がみられないときは、家族承諾のもと強く促す理学療法もときには有効ではないかと考えられた。ただし強い促しは人権侵害や逆効果にもなりえることから、実践で用いるときは慎重に対応すべき問題とも考えられた。今後はさらに認知症患者に対する介入方法を事例ごとに検証し、エビデンスの構築、確立へと向けていきたい。 【理学療法研究としての意義】 本研究からは、拒否が強くみられる認知症患者の理学療法では「PT2人が同時に関わる」や「強く促す、自発動作に合わせる」といった介入が効果的であるということが示唆された。認知症患者の症状は複雑であり理学療法を行う上で多様な工夫や手段が必要であることから、それらを提示できた本研究は意義あるものと考えられる。
著者
小嶌 康介 中村 潤二 北別府 慎介(OT) 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第50回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.78, 2010 (Released:2010-10-15)

【目的】筋電誘発電気刺激(ETMS)は脳卒中後の運動麻痺の改善を目的として近年試みられている治療であり,随意運動時に生じる筋放電を表面電極を介して測定し,設定された閾値を越えると電気刺激が誘発され筋収縮を引き起こす治療方法である。海外では脳卒中患者の手関節背屈筋群に対してETMSを実施した研究報告が散見されるがシステマティック・レビューでもETMSの治療効果はいまだ確立されておらず,本邦での治療報告はほとんどないのが現状である。一方で脳卒中患者の麻痺側上肢に対する他のアプローチとしてミラーセラピー(MT)による治療報告が散見される。MTでは,鏡像による視覚フィードバックにより脳へ錯覚入力を与え,その錯覚により運動感覚を生成し,運動前野や運動野の活性化をもたらし,運動麻痺を改善させることが考えられている。しかしMTの先行研究も多くは小サンプルであり,治療効果が確立されるには至っていない。ETMSとMTは,それぞれ異なる形で大脳皮質の損傷側の神経ネットワークの再構築にアプローチしており,両者を組み合わせることでより高い治療効果をもたらす可能性が考えられる。そこで今回,脳卒中患者の麻痺側上肢に対してETMSとMTの組み合わせ治療(ETMS-MT)を実施し,その臨床変化を捉え考察することとする。 【方法】対象は同意の得られた脳卒中患者2症例とした。症例1は脳梗塞発症後86日を経過した84歳の左片麻痺女性で研究参加時の運動麻痺はBrunnstrom Recovery Stage(BRS)にて,上肢stage_III_,手指stage_IV_であった。症例2は脳梗塞発症後111日を経過した72歳の左片麻痺男性でBRSは上肢stage_V_,手指stage_IV_であった。両症例とも口頭指示を理解し,著明な認知機能低下や高次脳機能障害はみられなかった。 ETMS-MTは椅子座位,両前腕を台上にのせた肢位で実施した。電極を設置した状態で麻痺側前腕以遠を卓上鏡にて隠し,その位置に非麻痺側前腕と手の鏡像を知覚するようにし,対象には常に鏡像を注視するよう指示した。電気刺激パラメータのon/off時間のうちonの時間は機器の聴覚信号に併せて両上肢同時に手関節背屈の随意努力を行い,offの時間は両側上肢で手関節,手指の運動を同調させて行った。 治療機器はChattanooga社製Intelect Advanced comboを使用した。電気刺激パラメータは周波数50Hz,パルス幅200μsecの対称性二相性電流を使用し,on/off時間は10/20秒とした。電流強度は疼痛を生じず,最大限の関節運動が起こる程度とし,閾値は手関節背屈の最大随意努力時とし対象の状態に併せて治療者が適宜調整を行った。対象筋は麻痺側尺側手根伸筋とした。 研究デザインにはBA型シングルケースデザインを用い,操作導入期(B期),治療撤回期(A期)はそれぞれ4週間とした。B期には標準的理学療法(PT),作業療法(OT)と併せてETMS-MTを1セッション20分間を2回/日,5日/週,4週間実施した。A期にはPT,OTのみを実施した。評価項目はFugl-Meyer Motor Assessment Scale上肢項目(FM),手関節背屈の自動関節可動域(AROM),握力,Box and Block Test(BBT),Wolf Motor Function Test(WMFT),Motor Activity Log(MAL)とした。 【説明と同意】本研究への参加を求めるにあたり,対象には本研究の目的や予測される治療効果および危険性について説明を行い,参加同意書に署名を得た。 【結果】B期には症例1,2はそれぞれFMにて11点,7点,AROMにて10°,0°握力にて2.0kg,1.0kg,BBTにて8個,6個,WMFTにて496.0秒,40.5秒,MALにて0.51点,0.99点と殆どの評価にて改善を示した。A期にはそれぞれFMにて5点,4点,AROMにて-5°,0°,握力にて0.5kg,3.0kg,BBTにて1個,2個,WMFTにて-47.1秒,7.4秒,MALにて-0.17点,-0.41点と変化し,一部の項目に低下もみられたが,わずかな改善傾向を示した。FMとWMFT,MAL,BBTは両症例ともB期により大きな改善を示した。 【考察】両症例ともB期に多くの改善を示しており,FMやWMFTの中でも手関節の分離運動や手の巧緻動作の項目に改善が多いことから,ETMS- MTが麻痺手の機能回復に寄与した可能性が考えられた。今後は症例数の増加,比較対照群の設定などにより,治療効果の検証を行っていく必要がある。 【理学療法研究としての意義】今回は2症例のみでの検証であったが,ETMS-MTは脳卒中後の上肢運動麻痺に対する新たな治療方法として今後の更なる検証の必要性が示唆された。
著者
大工谷 新一 小野 淳子 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.7, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】 筆者らはスポーツ外傷後の神経筋機能を評価する目的で,理学療法評価に電気生理学的検査を取り入れている.今回,スポーツ動作中に足関節内反捻挫を受傷したバスケットボール選手に対する電気生理学的検査で特異的な所見を得たので報告する.【対象】 対象は本件に関する説明に同意を得た21歳の男子大学バスケットボール選手であった.診断は左足関節内反捻挫(II度損傷)であった.現症としては,応急処置が奏功した結果,腫脹と疼痛,可動域制限はそれぞれ軽度であった.筋力検査は疼痛のため不可能であった.ADLレベルは,歩行は疼痛自制内で可能であるものの,段差昇降には時間を要し,走行は不可であった.【方法】 電気生理学的検査として,ヒラメ筋からH反射を導出した.具体的には,筋電計Viking Questを用いて,安静腹臥位で足尖をベッド外へ出した状態の被験者の膝窩部脛骨神経に電気刺激を16回加えて,H反射を記録した.電気刺激強度は,振幅感度を500μV/divとした画面上でM波出現が同定できる最小強度とした.H反射の記録後,同部位に最大上刺激を加え,最大M波を記録した.H反射振幅とM波振幅の平均値を求めた後に各々の比(振幅H/M比)を算出して,受傷前,受傷後3日,受傷後1ヶ月の振幅H/M比を比較した.【結果】 受傷前,受傷直後,受傷後1ヶ月の振幅H/M比は,非受傷側で0.17,0.88,0.21,受傷側では0.62,1.23,0.58であり,受傷直後に顕著に増大していた.また,得られた波形の外観上の特徴として,受傷直後の受傷側には長潜時反射様の律動的波形がH反射出現後に記録された.【考察】 振幅H/M比は脊髄神経機能の興奮性を示す指標である.また,下肢における長潜時反射は脳幹または大脳皮質の興奮性を表す指標となる.本症例では,受傷直後に両側についてヒラメ筋に関連する脊髄神経機能の興奮性に著しい増大が認められた.また,通常は安静時には導出されない長潜時反射も受傷直後の受傷側において記録された.これより,本症例においては足関節内反捻挫の受傷によって,一過性の脊髄神経機能の興奮性の増大が両側性に認められ,受傷側においては脳幹より上位の神経機能の興奮性も増大していたことが明らかとなった.この機序としては,受傷そのものによる脊髄神経機能への影響と,受傷した状態でADLに適応する過程で脊髄神経機能に及ぼされる影響の2つの観点から考慮する必要がある.受傷そのものによる脊髄神経機能への影響としては,疼痛を回避するために脊髄反射が亢進していた可能性や腫脹による関節内圧の変化などが考えられ, ADLに適応していく過程で脊髄神経機能に及ぼされた影響としては,受傷直後の不安定感や疼痛を回避するために,ヒラメ筋などの足関節周囲筋群の緊張性収縮を常時亢進させた状態で姿勢保持や動作遂行を繰り返していた影響があった可能性が推察された.
著者
熊崎 大輔 岩見 大輔 三原 修 守安 久尚
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.46, 2011 (Released:2011-10-12)

【目的】 我々は第50回近畿理学療法学術大会において、市民フェスティバルで一般市民を対象に実施した理学療法に関するアンケート調査について報告した。今年度も同様にアンケート調査を実施したので、昨年度の調査結果と比較し、その変化について検討することを目的とした。 【方法】 調査対象は、大阪府理学療法士会泉州ブロックにあるK市が主催する市民フェスティバルの参加者とした。調査は留置法により、質問紙を市民フェスティバル開催日に、会場内にて参加者に配布し、その場で回収した。有効回答数は631(男性300名、女性331名)で、回答者の平均年齢は39.9±21.9歳であった。 調査内容は、デモグラフィクス(性別、年齢、住まい、職業)、リハビリテーション、理学療法、理学療法士各々の認知度、本人、家族の理学療法経験の有無とした。認知度はそれぞれの項目に対して、知っているか、知らないか、理学療法の経験の有無では、経験があるか、経験がないかの二者択一での回答とした。また認知度と理学療法の経験の有無に関しては、昨年度と今年度を比較するため数量化を行った。具体的には、二段階評定を採用し、知っているおよび経験がある、知らないおよび経験がない、それぞれに2、1の得点を与え、間隔尺度を構成するものと仮定した。 データの分析はSPSSVer16を用い、昨年度と今年度の各項目の比較はt検定によって比較した。なお、有意水準は5%未満とした。 【説明と同意】 対象には研究の趣旨を説明し、同意を得た。 【結果】 2011年度の調査における認知度について、リハビリテーションでは、知っている75.3%、知らない24.6%であった。理学療法では、知っている46.6%、知らない53.4%であった。理学療法士では、知っている46.4%、知らない53.6%であった。理学療法の経験については、本人の経験で、ある18.1%、ない81.9%であり、家族の経験では、ある26.5%、ない73.5%であった。 昨年度との比較において、認知度では2010年度、2011年度の順に、リハビリテーションが1.77±0.42、1.78±0.84、理学療法は1.52±0.64、1.47±0.49、理学療法士では1.49±0.50、1.47±0.49であり、すべての項目で有意な差は認められなかった。理学療法の経験では、本人の経験が1.18±0.39、1.18±0.39、家族の経験は1.31±0.46、1.26±0.44であり、すべての項目で有意な差は認められなかった。 【考察】 今回の調査結果から、認知度に関してリハビリテーションは約8割の方が認知しているが、理学療法や理学療法士については約5割の認知であることが明らかになった。言い換えれば、リハビリテーションという用語は認知しているが、理学療法という具体的な内容や、それを担う職種についてはまだ認知が低いということになる。また昨年度との比較において、すべての項目に有意な差が認められなかったことから、1年間で認知度に変化はなかったことが分かった。 大阪府理学療法士会泉州ブロックでは理学療法の認知度を向上させるため、様々な活動に取り組んでいる。直接、一般市民の方々と関わりがある活動としては、市民フェスティバルへの参加、介護技術講習会や市民公開講座の開催などが挙げられる。このような活動に関しても、今後それらの活動を通して、より一般市民の方々に理学療法を認知していただける方法や内容を検討し、具体的・継続的に進めていく必要があると考えられた。 理学療法の経験については、本人が理学療法を受けたことがある方が約2割、家族が受けたことのある方が約3割という結果となり、昨年度との比較においても、有意な差は認められなかった。理学療法の経験については、一般市民の方々が疾患を持ち、理学療法を提供することで向上するものであり、数値が向上すればよいものではない。しかし、医療・介護を問わず、さらに理学療法を提供できる施設が充実し、一般市民が理学療法を必要した際に十分提供できる環境を作っていくことも、我々の地域社会対する役割といえるのではないだろうか。 今回の調査から、今後も理学療法、理学療法士の認知度を向上させるために、一般市民の認知度や経験を経時的に調査・把握し、具体的な活動を行っていくことが重要であると考えられた。 【理学療法研究としての意義】 理学療法士が社会的な身分や職域を確保していくためにも、一般市民の理学療法に対する認知度を調査・把握することには意義がある。一般市民の理学療法に対する認知度を向上させるために、どんな活動を、どんな対象に実施していくべきなのかを明らかにするためにも、認知度調査は理学療法学研究として価値があると考えられる。
著者
藤田 恭久 幸田 剣 田島 文博 木下 利喜生 箕島 佑太 橋崎 孝賢 森木 貴司 川西 誠 児島 大介 上西 啓祐 梅本 安則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.95, 2011

【目的】 リハビリテーション(リハ)においては,たとえ重篤な症例であっても,医学的に患者の全身状態を悪化させる安静臥床を避ける必要がある.そのため出来る限り離床を進め,運動負荷を加えることがリハの基本である.今回,原因不明の多臓器不全と診断され、肺炎と無気肺を合併したために約2カ月間の人工呼吸器管理となった症例に積極的なリハを施行した。その結果、人工呼吸器離脱と同時に歩行自立を達成したので、その工夫を含めて報告する。<BR>【方法】 症例は37歳,男性,身長180cm,体重180kg,BMI 55.5kg/_m2_.今回,多臓器不全・肺炎により当院に緊急搬送,ICUで人工呼吸器管理となり,廃用予防・呼吸循環機能改善目的で入院2日目よりリハ開始となった.リハ開始時現症は,意識レベルJCS 300(鎮静下),人工呼吸器管理(経口挿管,APRV,FiO2 0.6,PEEP(high/low) 20/0),TV 500ml,SpO2 95%,血液ガス分析はPaO2 76.6mmHg,PaCO2 50.9 mmHg,P/F比128,AaDO2 287 mmHgであった.ROM制限は無く,自発運動は認めなかった.重度の肥満があり,体位ドレナージは当初より困難であった.ICU入室15日後,気管切開され,抜管のリスクが低下したため,端座位・立位訓練開始.この時,鎮静は実施されておらず,意識は清明であり,MMT両上肢3,両下肢2レベルであった.多臓器不全・肺炎の治療に長期を要し,ICU入室31日後,一般病棟へ転棟.その後もベッドサイドで人工呼吸器装着下(CPAP,FiO2 0.6,PEEP 8)で,端座位・立位訓練を継続した.<BR>転棟25日後,病棟で呼吸器離脱に向け,日中はT-tube(O2 8L,FiO2 0.8)を開始されたが,時折SpO2低下を認めたため,夜間は呼吸器管理を継続された.画像所見では,両肺に無気肺・スリガラス陰影を認めた.血液ガス分析はPaO2 77.6 mmHg,PaCO2 39.8 mmHg,P/F比172,AaDO2 193mmHgであった.肺炎が沈静化しておらず,酸素化能の低下には無気肺の影響もあると考えられた.検討の結果,人工呼吸器を持ち運び可能なHAMILTON-C2に変更し,リハ室へ出棟することとした.歩行訓練やハンドエルゴメーター(20W 20分)を中心とした運動負荷を積極的に行い,換気量を増加させることに努めた.リハ来室時の状況は,人工呼吸器(CPAP,FiO2 0.3,PEEP 6),安静時SpO2 97%,HR115回/分,TV600ml,呼吸数18回/分であった.歩行訓練後はSpO2 94%,HR132回/分,TV1200ml,呼吸回数25回/分となった.この時,HAMILTON-C2の支柱を自ら把持し軽介助レベルで歩行可能であった.<BR>訓練中に呼吸困難感が生じた際は,リハDrによりPEEPやPSなどの呼吸器設定を適宜変更しながら運動負荷量を増加させていった.<BR>【説明と同意】 本症例と家族に対して発表の趣旨について説明を行い,情報の開示に対し同意を得た.<BR>【結果】人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハ室で1週間運動療法を施行した結果,人工呼吸器を完全に離脱でき,T-tube(O2 5L,FiO2 0.3)へ移行できた. T-tubeの状態でも運動療法を推進した結果,酸素が不要となり,退院前には気切閉鎖できた.血液ガス分析はPaO2 68.1mmHg,PaCO2 40.6mmHg,P/F比324,AaDO2 23.8mmHgとなり,画像所見で無気肺の改善を認めた.体重は135kgに減量し,MMT上下肢4レベルとなった.ADLでは歩行が歩行器からT字杖歩行,独歩可能,身の回り動作が自立できた.<BR>【考察】気管切開後も人工呼吸器管理であったため,当初はベッドサイドでの立位訓練や車いす移乗までしか行えなかった.主治医より呼吸器離脱に向けた無気肺の改善を求められたが,重度の肥満があり,病棟での体位ドレナージは施行困難でリハ以外は臥床傾向であった.そこで今回,人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハDrの付き添いのもと行える環境を設定したことで,運動負荷時に呼吸困難感が出現した際の対応も可能となった.そのため積極的な運動療法を安全に施行できたと考える.<BR>リハ室で訓練を行う事で日中の臥床傾向を減少させ,更に運動負荷を強める事で換気亢進が惹起され,無気肺の改善に寄与したと考えられる.その結果,P/F比・AaDO2も改善し,呼吸器の離脱が可能となったと思われる.また,歩行訓練のみならず,全身調整運動を欠かさず続けた結果,BMI 41.7kg/_m2_まで減量することができ,歩行能力を含めたADL向上が得られたと考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器管理下では積極的なリハを敬遠しがちであるが,リハDrの付き添いのもと,持ち運び可能な人工呼吸器を使用することが,人工呼吸器装着患者に対して安全かつ効果的な運動負荷を実施するための選択となると考えられる.