著者
田崎 民和 西村 治夫 薬師寺 道明 松村 隆 東島 博 森崎 秀富
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.353-359, 1990
被引用文献数
3

特異的な卵巣間質の増殖で特徴づけられるKrukenberg腫瘍の腫瘍形成までの過程を明らかにする目的で, ほとんど卵巣の腫大を認めない10例のKrukenberg腫瘍を転移の初期病巣と考えて病理組織学的に検討し, 以下の結論を得た. 1) 初期転移巣の組織形態としては, リンパ管侵襲のみの像, 充実性胞巣像, びまん性浸潤像の3種の基本形態に分類された. 2) 全例に卵巣門部のリンパ管侵襲がみられた. 3) びまん性浸潤型では, 印環細胞がリンパ管を介して卵巣門部より皮質に向かって, びまん性放射状に広がる像がみられ, さらに末梢においてリンパ管より間質に腫瘍細胞が漏出し浸潤していく所見が確認された. この時期では卵巣間質の反応は比較的軽度で, 浸潤の末端部において印環細胞がより豊富に存在していた. 4) 充実性胞巣を示すものでも, 充実性胞巣の中に間質の介在がみられ, 腫瘍の未分化な性格が示唆された. 5) 対側の腫大卵巣の組織形態は, 著明な卵巣間質の増生を伴う肉腫様像, 硬性癌像を呈するものがほとんどであった. 6) ABC法によるCEA染色では, 一見腫瘍細胞の存在が不明瞭な, 増生した間質の中にもCEA陽性の腫瘍細胞が多数存在していた. 以上の結果からKrukenberg腫瘍の腫瘍形成過程を考察すると, 転移経路は卵巣門部より侵入するリンパ行性転移であり, 門部から均等に卵巣全体への腫瘍細胞の浸潤がまずおこり, その後印環細胞の破綻による粘液の間質内漏出が引金となって間質の浮腫と増生が始まると考えられた. 卵巣腫大の大きな因子はこの卵巣間質の増生と浮腫であり, 卵巣間質のsarcomatousな変化は, そこに埋もれるように存在する未分化で上皮性性格に乏しい腫瘍細胞と, 増殖した卵巣間質によって形成されると考えられた.