著者
森本 淳平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

申請者は、生体の翻訳の機能で炭素-炭素結合を形成させることで、多様な構造を有するライブラリの構築およびスクリーニングをmRNAディスプレイ法によって可能とすることを目指した。初年度の前半でこの研究を追求したが達成には至らなかったため、側鎖に特殊な構造を有するアミノ酸が導入されたペプチドライブラリを構築・スクリーニングする、という研究へと方向転換し、初年度の後半および第2年度の研究を通してこれを達成した。本年度は、前年度の研究で得られたヒト脱アセチル化酵素SIRT2の阻害ペプチドをさらに深く評価する研究を行った。まず、SIRT2阻害ペプチドS2iL8およびS2iD7のいくつかの変異型を合成してSIRT2への結合能および阻害能を評価することで、これらペプチドの強力な結合能の構造的基盤を明らかとした。この結果は学術誌へ論文投稿し掲載された。また、本研究の基盤技術となるフレキシザイムというリボザイムについての総説も学術誌に掲載された。また、阻害ペプチドの分子構造の徹底的な改造を行なうことによって、IK^<Tac>TY(K^<Tac>=チオアセチルリシン)というペプチドを創出し、10μMで細胞内のSIRT1を阻害し、p53のアセチル化レベルを亢進させることに成功した。この成果は現在論文投稿準備中である。さらに、東京大学の濡木研究室との共同研究を通してSIRT2阻害ペプチS2iL5とSIRT2との共結晶構造の解明にも成功した。この結果から、in vitroでの活性評価の結果を裏付けるデータだけでなく、SIRT2の基質特異性に関わるような新たな知見も得られた。これら結晶構造解析の成果についても、現在論文投稿準備中である。このように、本年度の研究を通して、一報の論文掲載とさらに二報分の論文の研究成果をあげた。三年間の研究を通じて、当初の目的であった炭素-炭素結合を形成することはできなかったものの、特殊なペプチドライブラリの構築およびスクリーニング技術の発展に貢献し、興味深い構造を有する強力な阻害剤の獲得に成功した。