著者
森本 真幸
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.61-70, 2002-01-10 (Released:2017-08-01)

八〇〜九〇年代の教科書で初めて平和教材が位置づけられ、「一つの花」は四年生の定番教材となった。「一つちょうだい」とくり返すゆみ子に、コスモスを渡して出征した父親の姿は、戦争に負けない父親の愛情を示しているように読みやすい。だが、父親も母親も、天皇の名前で進められる従順な日本人だった。そして戦後十年経って、母親もゆみ子も、そして語り手も、戦争を批判的に見る目を持たずに、毎日の生活に安住していた。