著者
森棟 せいら
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究は, ガラス管型を用いることにより, ポリピニルアルコール(PVA)/ナノダイヤモンド(ND)ナノ複合材料を繊維状に成形し, さらに延伸を行うことにより, 超延伸PVA/ND繊維を作製した。作製した超延伸(延伸倍率 : 30) PVA/ND繊維では, PVA微結晶は延伸方向に高配向(配向率95.4%)していることを明らかにした。引張り試験による力学物性の測定をおこなったところ, 未延伸繊維の力学物性はPVA/NDキャストフィルムと同様であった。一方, 超延伸を行うことにより, 力学物性は飛躍的に増加した。ここから, PVAの微結晶配向が繊維の力学物性に大きく影響することが示された. また, 超延伸繊維についてPVA繊維とナノ複合繊維の比較を行うと, NDを1Wt%充てんすることにより, 弾性率は35%, 強度は23%と大きく増加することが明らかとなった。したがって, 超延伸ナノ複合繊維は, PVA微結晶が高配向したことに加えNDの優れた補強効果が発現したことから, 高い力学物性を示すことを見出した。上述の超延伸PVA/ND繊維と同様に, 超延伸PVA/グラフェンオキサイド(GO)繊維を作製した。GOはシート状の形状を有していることから, 繊維内でPVAのみならずGOが配列することにより, さらなる力学補強効果を期待できる。GOをlwt%充てんしたナノ複合繊維は, 超延伸(延伸倍率50倍)を行うことにより弾性率が60GPaに達した。これは, ガラス繊維(弾性率70GPa)に匹敵・追随する値である。さらに, 超延伸PVA/GO繊維は, 優れた熱物性を示すことを明らかにした。GOを充てんしていないPVA繊維と比較して, GOを1wt%充てんしたナノ複合繊維の熱分解温度は, いずれの延伸倍率においても10℃高いことを明らかにした。これは, GOがPVA分子鎖の運動を抑制し, 熱分解に伴う生成物の放出をバリアしたためであると考えられる。