著者
森田 昂 岡田 隆道 大賀 辰次郎 加納 正 岡田 弘
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.397-403, 1979
被引用文献数
1

系統的アミロイド症を伴つた骨髄腫に2種の癌を併発した希な症例を経験した.またこの例は6年前の喉頭癌の手術時にすでに単クローン性γ血症をみとめ,その後次第にM成分量の増量と共に骨髄腫の病像を完成した点でも興味がもたれた.症例: 70才,男性. 64才時に喉頭の扁平上皮癌で摘除をうけ,癌周囲組織に形質細胞浸潤が目立つた.血清総蛋白7.8g/dl中fast γ域に1.8g%のM成分を認めたが放置. 5年後心不全症状で緊急入院.血清総蛋白10.4g/dl中IgG-λ型のM成分が3.7g%を占めたが,この時期では尿BJ蛋白は陰性.骨髄中の形質細胞は未熟型のものも含めて4.8%で,骨髄腫の診断を確定しえなかつた.その後右足にBowen病を発症し,その切除標本の癌周囲組織には形質細胞浸潤はなかつた.入院7カ月後に至つてBJが出現,すなわちBJ escapeがみられ,さらに血清蛋白M成分の漸増と正常γ-glの著減,骨髄中異型形質細胞の著増をみとめて骨髄腫と診断した. prednisolone, cyclophosphamideの併用治療を開始し著効を見たが,心不全が増強し死亡した.剖検により全身諸臓器の骨髄腫細胞浸潤と,心,肝,脾,腎,副腎などにアミロイド沈着が認められた.本例の検討を通じて単クローン性γグロブリン血症と癌の関係,骨髄腫・アミロイド症・癌の複雑な合併にみられる免疫学的背景,骨髄腫の自然史などについて考察した.なお, Bowen病は種々の悪性腫瘍を合併するが骨髄腫を合併した報告例はない.本例が最初である.