著者
森田 沙斗武 西 克治 古川 智之 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.38-43, 2016

近年、わが国では高齢化が大きな社会問題となっており、65歳以上が人口の25.0%を占める。さらに、近年一人暮らし世帯の割合が著明に増加しており、一人暮らし高齢者は4,577,000人と高齢者人口の15.6%を占める。孤立死についての確固たる定義はないが、内閣府の高齢社会白書には「誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」と表現されている。これまでの報告では「独居の在宅死」を孤立死として取り扱っていることが多いが、孤独死の本質的な問題点は社会からの孤立である。我々は社会からの孤立の程度は、死後から発見までの時間を指標にできると考えた。すなわち、これまでの報告が「誰にも看取られることなく息を引き取る」ことに注目していたのに対し、我々は「相当期間放置される」ことに注目し高齢者の孤立死に対する調査を行った。2010年4月から2012年3月の3年間に大阪府監察医事務所で行われた死体検案例のうち、筆者らが実務を遂行した症例から自殺症例を除外した65歳以上の高齢者448例について、死後発見時間にフォーカスを当て、性別、同居・独居の別、年齢、死亡から発見までの時間、最終通院から死亡までの時間、発見に至った経緯、死因に関して検討を行った。また、その中で通院歴が明らかとなった242例について最終通院から死亡までの時間を抽出し、評価を行った。その結果、高齢者は若年者に比べて必ずしも孤立死が増加しているのではないことが明らかとなった。孤立死の危険因子としては、男性、無職、独居が挙げられ、また、医療機関を頻回に受診すると死後発見時間が短くなる傾向が判明した。現代において高齢者の一人暮らし世帯の増加は不可避であり、我々は孤立死を減少させる取り組みの本質は死後発見時間の短縮であると考える。その上で、高齢者に就労の場、かかりつけ医制度の充実、ヘルパーの積極的な訪問などの対策を提唱する。