著者
一杉 正仁 菅谷 仁 平林 秀樹 妹尾 正 下田 和孝 田所 望 古田 裕明
出版者
獨協医科大学
雑誌
Dokkyo journal of medical sciences (ISSN:03855023)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.79-84, 2008-07
被引用文献数
1

医学部6年生を対象に,試験におけるマークミスの実態調査を行い,有用な予防対策を検討した. 36人の学生が530問の医師国家試験用模擬試験を解答し,自己採点結果と実際の採点結果を照合した.半数以上の受験生が1問以上のマークミスをおかしていた.ミスの具体的内容では,自己採点が正しいものの,マークは誤っていた場合が45.7〜54.8%と最も多く,選択数を誤っていた場合が30.4%〜35.7%と続いた.また, 5肢複択問題のしめる割合が増えるにしたがって,マークミスの頻度も有意に増加する傾向であった.受験者の正味試験時間を調べると,規定時間の約10%は見直し時間として利用できることがわかった.受験者は,自ら選択した解答肢が正確にマークシートに記入されているかを見直すことで,不本意な失点が防げると思われる.マークミス予防の指導は, fail-safeの対策としても重要であり,医師となった後にも十分役立つと考えられる.
著者
川井 北斗 中川 里沙子 高相 真鈴 中西 智之 高 淳澔 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.27-32, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
12

自動車の衝突事故以外の死亡例として、一酸化炭素(CO)中毒、熱中症、溺水などが報告されている。しかし、これらに対しては具体的な分析に乏しく、効果的な予防策が構築されていない。今回、自動車内で不慮のCO中毒により死亡した剖検2事例、およびわが国における同様事例を調査し、予防策について検討した。剖検例は、1例が雪による排気管の閉塞、もう1例は自動車衝突後の排気管破損放置が原因でCO中毒死を遂げていた。一方、わが国の報告例は、自動車内における不慮のCO中毒者は39人であり、うち14人は死亡していた。発生原因については、死亡例は本剖検例のような車両の整備不良が42.9%、雪による排気管の閉塞が21.4%であり、生存例は雪による排気管の閉塞が92.0%であり、車両の整備不良が8.0%であった。CO中毒予防策について、まず、死亡例においては、車両の整備不良による一酸化炭素中毒になる危険性について広く啓発するとともに、排気管の損傷等を確認すべく、点検・整備を受ける必要がある。次に、生存例においては発生原因の92.0%が雪による排気管の閉塞であり、約半数は乳幼児が犠牲になっているという特徴があった。対策として、積雪時には必ず排気管のテールパイプ周囲の雪を除雪してエンジンをかける必要がある。また、自動車に関するCO中毒事例の登録制度の構築によって、全事例の詳細な分析が望まれる。さらに、自動車内のCO濃度を測定して警報を発するシステムの導入といった車両の安全対策も望まれる。
著者
一杉 正仁 有賀 徹 三宅 康史 三林 洋介 吉沢 彰洋 吉田 茂 青木 義郎 山下 智幸 稲継 丈大
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.53-58, 2020 (Released:2021-04-02)
参考文献数
12

緊急自動車に対する反射材の取り付けについて学術的に検討した結果、次のとおり推奨する。 1.反射材を車体に取り付けることは、視認性の向上に有用である。 2.反射材の選択においては、再帰性に富んだ反射材が望まれる。 3.反射材の取り付けにおいては、他の交通の妨げにならないこと、車両の前面に赤色の反射材を用いないこと、車両の後面に白色の反射材を用いないこと、が原則である。 4.車体の輪郭に沿って反射材が取り付けられること、車体の下部にも反射材が取り付けられること、は視認性の向上に有用である。 5.蛍光物質を含む反射材は、夜間のみならず、明け方、夕暮れ、悪天候などでの視認性向上に有用である。 6.今後は救急自動車以外の緊急車両、現場で活動する関係者が着用する衣服などで、反射材を用いた視認性の向上を検討する余地がある。
著者
前田 玄太 一杉 正仁 柴崎 宏武 影澤 英子
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.20-26, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
9

交通事故総合分析センターのマクロデータの中から2012〜2016年の5年間に日本で発生した「路上横臥」(以下、横臥群とする)の交通事故を対象に、事故発生状況、路上横臥による死傷者の背景および人身損傷程度を分析した。また、同期間の事故類型別の「人対車両」の非路上横臥の交通事故(以下、非横臥群とする)と比較した。横臥群が人対車両の中に占める割合は、死傷者数で0.6%、死亡者数で8.3%であった。横臥群の発生は8月がもっとも高く、夏季に多い傾向であった。次いで12月を中心とした冬季にも高い傾向がみられた。非横臥群の発生は12月がもっとも高く、冬季に多い傾向であった。横臥群は非横臥群と比較して、土曜日および日曜日の発生割合、および夜間の発生割合が有意に高かった(p<0.001)。横臥群では、死亡の割合(致死率)が33.0%であり、非横臥群の致死率2.3 %と比較して有意に高かった(p<0.001)。路上横臥は致死率が高いため、路上横臥者を轢過しないための予防安全が重要である。地域の実情を踏まえた路上横臥の予防対策と、事故を回避できる車載システムの実用化が今後望まれる。
著者
一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.186-190, 2018-04-25 (Released:2018-05-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1

わが国では,交通事故死者数が減少傾向にあるが,65歳以上の高齢者が占める割合は増え続け,54.8%となった.高齢運転者は,青壮年に比べて事故をおこしやすく,特に正面衝突事故が多い.事故の原因として,慌てやパニック状態となり,適切な危険回避行動をとれないことや,体調不良によって適切な操作を行えないことが挙げられる.高齢者は判断能力や操作能力が低下するため,これらを補うような訓練や装置の導入が望ましい.
著者
一杉 正仁 安川 淳 五明 佐也香 槇 徹雄 徳留 省悟
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.3-8, 2011 (Released:2018-03-01)
参考文献数
15

1997年から2011年の14年間に獨協医科大学法医学講座で行われた四輪自動車運転者の法医解剖91例のうち、運転中の体調変化によって病死した33例(走行中病死群)および事故による外傷で死亡したが、原因が運転者の機能的変化によると推定される8例(外傷死群)を対象に、その特徴を調べた。いずれの群ともに、70%以上の運転者で何らかの既往疾患が認められ、高血圧、心・大血管疾患、糖尿病が多かった。事故による損傷の重症度では走行中病死群で平均ISSが4.7と低いが、外傷死群では37.0と有意に高かった。すべての身体部位のAIS値は外傷死群で高かったが、特に胸部の平均AIS値が4.1と著しく高く、頭頸部の2.0、四肢の1.8と続いた。交通事故死の約1割で運転者の体調変化が事故原因となっているため、まず、運転者の健康管理を厳格に行う必要がある。また、交通外傷と診断された患者の中には、事故原因が運転中の体調変化に起因する例が潜在的に含まれる。したがって、外傷患者に対しても、交通事故の原因として運転者の体調変化を念頭に置き、検索をすすめる必要があろう。
著者
横山 朋子 一杉 正仁 佐々木 忠昭 長井 敏明 今井 裕 徳留 省悟
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.107-111, 2005-09-19 (Released:2017-04-27)
参考文献数
9

獨協医科大学口腔外科で外科治療を必要とした未成年患者のうち、母親がエホバの信者であった3人を対象にインフォームド・コンセントの過程および治療経過を参考に、輸血の可否を決定する際の望ましい対応法について検討した。15歳と17歳の患者は本人の意思にもとづいて、それぞれ輸血を承諾した。また、9歳の患者は十分な判断能力があると思われ、本人および母親の希望で非観血的治療を行った。未成年者が意思決定を行う際に、親の影響を受けることは十分に考えられるが、本人の判断能力の有無を見極めるには、年齢のみでなく患者との十分なコミュニケーションにもとづいて慎重に行うことが重要である。未成年者においても、判断能力がある場合には本人の意思を尊重すべきである。また、判断能力が不十分な場合や患者の意思が確認できない場合には、保護者の意思を最大限に尊重しながら、倫理委員会や複数の医師の判断で輸血の可否を決定することが望ましいと思われた。
著者
馬塲 美年子 一杉 正仁 松村 美穂子 相磯 貞和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-20, 2011 (Released:2018-03-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

糖尿病患者は、治療中の低血糖により意識障害を引き起こすことがあり、運転中に発作が起こった場合には、死傷事故につながる。今回われわれは、糖尿病治療中の低血糖による意識障害に起因した自動車事故の裁判例を調査し、糖尿病患者が自動車を運転する際に求められる注意義務、および事故予防のため医師や社会が注意すべき点について検討した。対象は8例で、事故は1996年から2009年に発生していた。運転者の職種は、職業運転者が3人、会社員2人、無職(主婦)2人、僧侶1人であった。また、事故で計7人が死亡し、16人が負傷していた。裁判では、病気による意識障害を理由に無罪を主張した例は3例あった。処分が判明している6例はすべて有罪であった。糖尿病治療中の患者が自動車を運転者する場合、前兆を感じた時点で運転を中止する義務、もしくは運転自体を控える義務がある。つまり、病気を理由に刑事責任を免れることはできない。また、行政によるチェックの強化や事業者に対する指導の徹底により、事故の予防効果は高まる。さらに、糖尿病治療中の低血糖が医原性のものであることを考慮すれば、医療従事者が糖尿病患者に対して運転中の低血糖予防についてさらなる指導が必要であると考えられた。
著者
馬塲 美年子 一杉 正仁 大久保 堯夫
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.12-17, 2013 (Released:2014-09-25)
参考文献数
21

交通事故の原因の約1割は,運転者の体調変化に起因すると言われており,今後の効果的予防策として,運転者の体調管理が挙げられる。特に,規制緩和の影響などにより労働環境が厳しい状況にあるタクシー業界では,運転者の高齢化も顕著であり,他の事業用自動車の運転者より,健康起因事故の発生率が高い。タクシー運転者では,脳血管疾患や心疾患の危険因子を持つ人が多いことが指摘されてきた。タクシー運転者の健康起因事故を予防するために,事業者と運転者,産業医の連携が必要であると思われる。さらに,業界や国などによる健康管理へのサポート制度の導入などが望まれる。(図4)
著者
吉沢 彰洋 中村 俊介 山下 智幸 三林 洋介 一杉 正仁 有賀 徹
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.79-80, 2016 (Released:2018-03-01)

長野県北アルプス広域消防本部において、2015年11月に実施された既存車両への「再帰性に富んだ反射材」貼付の実証実験とその後のアンケート調査の結果、非常に高い評価を得た。このうち救急車に関しては、実車両の反射具合と国土交通省発出文書に関する松本自動車検査登録事務所の解釈が落ち着いたことを確認して、貼付位置等を若干変更し、2016年3月18日「再帰性に富んだ反射材」を備えた新車の納車を迎えた。
著者
石井 亘 飯塚 亮二 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.35-41, 2020 (Released:2021-04-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1

自動車乗車中のシートベルト着用が義務化されてから、シートベルトによる胸腹部損傷が顕著になってきた。シートベルトによる損傷の形態と受傷機転を明らかにするために後方視的検討を行った。2013年4月〜2018年3月に京都第二赤十字病院(以下、当院)に入院した外傷患者の中で、シートベルト痕がありシートベルトに起因したと考えられる体幹部外傷例14症例を対象とした。各例で受傷機転、損傷、病院搬入時のバイタルサイン、治療法などを比較した。平均年齢は49歳で10例が運転者、3例が助手席乗員であった。胸腹部のシートベルト損傷のみを認めるのが8例、四肢や頭頸部に合併損傷を認めるのが6例であった。これらの間で平均ISS(Injury Severity Score)に有意差はなかった。また、明らかにシートベルトの着用位置が不適切であったのが4例あり、シートベルトが腹部にかかることで生じた小腸腸間膜損傷、腹壁筋膜下血腫、肩ベルトが頸部にかかることで生じた頸部の皮下血腫などが生じていた。自動車乗員の交通外傷診療では、シートベルト着用の有無を確認することがまず重要である。そして、シートベルトが正しい位置に着用されているかを確認する必要もある。シートベルト痕を認める症例では、経過とともに症状が現れて重症化することがあり、慎重な管理が必要と考える。
著者
武原 格 一杉 正仁 渡邉 修 林 泰史 米本 恭三 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.247-252, 2016-03-18 (Released:2016-04-13)
参考文献数
14
被引用文献数
11 8

はじめに:脳損傷者の自動車運転再開に必要な高次脳機能の基準値の妥当性を検証するために実態調査を施行した.方法:2008年11月~2011年11月までに東京都リハビリテーション病院に入院し運転を再開した脳損傷者を基準値群,2011年12月~2012年11月まで同院に入院し運転を再開した脳損傷者を検証群とした.検証群の高次脳機能検査結果より暫定基準値の妥当性を検討した.結果:基準値群は29名,検証群は13名であった.検証群のうち高次脳機能検査結果がすべて基準値内である脳損傷者は9名(69.2%)であった.暫定基準値を下回った高次脳機能検査項目は,1名はMMSEおよびTMT-A,1名はWMS-Rの視覚性再生および視覚性記憶範囲逆順序,2名はWMS-Rの図形の記憶であった.結論:机上検査結果は運転再開可否の目安となるが絶対的基準とは言えず,症例ごとに運転再開の安全性について検討すべきである.
著者
森田 沙斗武 西 克治 古川 智之 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.38-43, 2016

近年、わが国では高齢化が大きな社会問題となっており、65歳以上が人口の25.0%を占める。さらに、近年一人暮らし世帯の割合が著明に増加しており、一人暮らし高齢者は4,577,000人と高齢者人口の15.6%を占める。孤立死についての確固たる定義はないが、内閣府の高齢社会白書には「誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」と表現されている。これまでの報告では「独居の在宅死」を孤立死として取り扱っていることが多いが、孤独死の本質的な問題点は社会からの孤立である。我々は社会からの孤立の程度は、死後から発見までの時間を指標にできると考えた。すなわち、これまでの報告が「誰にも看取られることなく息を引き取る」ことに注目していたのに対し、我々は「相当期間放置される」ことに注目し高齢者の孤立死に対する調査を行った。2010年4月から2012年3月の3年間に大阪府監察医事務所で行われた死体検案例のうち、筆者らが実務を遂行した症例から自殺症例を除外した65歳以上の高齢者448例について、死後発見時間にフォーカスを当て、性別、同居・独居の別、年齢、死亡から発見までの時間、最終通院から死亡までの時間、発見に至った経緯、死因に関して検討を行った。また、その中で通院歴が明らかとなった242例について最終通院から死亡までの時間を抽出し、評価を行った。その結果、高齢者は若年者に比べて必ずしも孤立死が増加しているのではないことが明らかとなった。孤立死の危険因子としては、男性、無職、独居が挙げられ、また、医療機関を頻回に受診すると死後発見時間が短くなる傾向が判明した。現代において高齢者の一人暮らし世帯の増加は不可避であり、我々は孤立死を減少させる取り組みの本質は死後発見時間の短縮であると考える。その上で、高齢者に就労の場、かかりつけ医制度の充実、ヘルパーの積極的な訪問などの対策を提唱する。
著者
馬塲 美年子 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.42-49, 2020 (Released:2021-07-23)
参考文献数
8

近年、体調変化に基づいた健康起因事故が問題となっており、特定の病気に罹患している運転者の事故に対して、一定の要件の下に危険運転の適用が可能となる法律が新設された(2014年)。また免許取得・更新の際、免許の欠格事由となる一定の病気に対するチェックが強化された(2014年)。しかし、健康起因事故は特定の病気や一定の病気だけでなく、いわゆるcommon diseases or symptomsに基づく体調変化でも起こり得る。日常的に誰もが経験する体調変化は、運転に際してのリスクとして意識されにくいが、死傷事故の原因となり得る。 そこで、健常な人であっても日常的に経験することが多いcommon diseases or symptomsに起因した交通事故の予防策を講じる知見を得ることを目的として、かぜ症候群、腹痛、誤嚥(むせ)に基づく事故事例および判例について検討した。対象は15例で、事故当時の平均年齢は51.1±13.3歳であった。職業運転者が3分の2(10人)を占めていた。疾患・症状は、かぜ・くしゃみが各5例、インフルエンザが2例、咽頭炎・腹痛・誤嚥(むせ)が各1例であった。刑事処分結果が明らかな事例は8例あり、被疑者死亡による不起訴の1例を除き、全例有罪判決が下された。有罪7例中、6例は運転中止義務違反、1例は運転避止義務違反で過失が認められた。一定の病気や特定の病気に罹患している運転者と同様に、比較的軽微な疾患・症状であっても、体調不良時の運転は避けること、運転を継続しないことが重要であると考えられた。実刑判決は3例あり、いずれも職業運転者であった。職業運転者の健康起因事故では、事業者も法的責任が問われることがある。事業者もcommon diseases or symptomsの運転リスクを認識し、日頃からの基本的な対策を怠らないことが必要である。
著者
馬塲 美年子 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.26-34, 2020 (Released:2021-04-02)
参考文献数
13

近年、高齢の免許保有者は増加しており、交通事故発生件数における高齢者率も年々増加している。2017年の道路交通法(以下、道交法)改正で、認知機能検査で第1分類(認知症のおそれあり)と判定された高齢者は、免許の更新時に医師の診断書提出が義務づけられたが、高齢者の事故の原因は、認知症に起因したものばかりではない。そこで、増加する高齢者事故の特徴、および事故を起こした高齢運転者の法的責任を検討し、事故予防策を講じる知見を得ることを目的として、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行後に発生した高齢運転者(65歳以上)による事故の刑事裁判例について検討した。対象は26例で、運転者の平均年齢は76.0±7.4歳であった。3人は、職業運転者であった。何らかの疾患に罹患していた運転者は7人で、認知症、てんかん、糖尿病、心臓病、がん、難聴、白内障であった。事故原因は、不適切な操作(アクセルとブレーキの踏み間違いなど)が9例ともっとも多かった。有罪となったのは23例で、過失運転致死傷が20例、危険運転が2例、道交法違反(酒気帯び)が1例であった。過失運転では、結果の重大性、基本的な注意義務の違反、悪質性が認められるケースでは起訴されて公判が開かれる可能性が高くなる。そしてその結果や注意義務違反・悪質性がとくに重いと判断された事例では実刑判決が下されていた。量刑において、高齢であることや長期間の安全運転経歴が考慮されることもあるが、過失の刑事責任は免れない。また、故意が認められる危険運転では、高齢などの諸状況が考慮される余地は少ないと考えられた。高齢運転者の事故は、認知症患者の免許を取り消すことだけでは解決できない。運転経験を過信することなく、加齢に伴う運転能力の低下を自覚できるようなサポートが必要であろう。また、高齢の就業者が増加するなか、高齢者を雇用している事業者による安全対策も求められよう。
著者
馬塲 美年子 一杉 正仁
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.26-34, 2020

近年、高齢の免許保有者は増加しており、交通事故発生件数における高齢者率も年々増加している。2017年の道路交通法(以下、道交法)改正で、認知機能検査で第1分類(認知症のおそれあり)と判定された高齢者は、免許の更新時に医師の診断書提出が義務づけられたが、高齢者の事故の原因は、認知症に起因したものばかりではない。そこで、増加する高齢者事故の特徴、および事故を起こした高齢運転者の法的責任を検討し、事故予防策を講じる知見を得ることを目的として、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行後に発生した高齢運転者(65歳以上)による事故の刑事裁判例について検討した。対象は26例で、運転者の平均年齢は76.0±7.4歳であった。3人は、職業運転者であった。何らかの疾患に罹患していた運転者は7人で、認知症、てんかん、糖尿病、心臓病、がん、難聴、白内障であった。事故原因は、不適切な操作(アクセルとブレーキの踏み間違いなど)が9例ともっとも多かった。有罪となったのは23例で、過失運転致死傷が20例、危険運転が2例、道交法違反(酒気帯び)が1例であった。過失運転では、結果の重大性、基本的な注意義務の違反、悪質性が認められるケースでは起訴されて公判が開かれる可能性が高くなる。そしてその結果や注意義務違反・悪質性がとくに重いと判断された事例では実刑判決が下されていた。量刑において、高齢であることや長期間の安全運転経歴が考慮されることもあるが、過失の刑事責任は免れない。また、故意が認められる危険運転では、高齢などの諸状況が考慮される余地は少ないと考えられた。高齢運転者の事故は、認知症患者の免許を取り消すことだけでは解決できない。運転経験を過信することなく、加齢に伴う運転能力の低下を自覚できるようなサポートが必要であろう。また、高齢の就業者が増加するなか、高齢者を雇用している事業者による安全対策も求められよう。