著者
安井 勉 森田 潤一郎 鮫島 邦彦
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1986

本研究は食肉の機能特性として重要なゲル形成反応の発現因子である収縮性蛋白質、ミオシン及びアクチンを中心にゲル形成メカニズムを分子論的に解明することを目的として行なわれた。3ケ年間にえられた結果は以下の通りである。1.食肉の利用加工条件下でのFーアクチンの熱変性機構が示差熱分析を含む物理化学的手法により研究され、アクチンの熱変性は30°〜40℃における凝集反応、45°〜50℃域の生物学的活性喪失の反応をへて、吸熱的な分子構造の崩壊にいたる三段階の変化過程をたどることが確認された。2.ミオシンを化学修飾しFーアクチンとの結合を完全に阻害すると、アクトミオシン複合体による加熱ゲル強度増強効果はみられなくなる。上記の結果はミオシンモノマーの熱ゲル化反応に及ぼすアクチンの影響を考える上で重要な鍵となる。3.ミオシンの熱ゲル化反応は材料となるミオシン分子種によって異なった挙動を示すことが明らかにされた。白色筋、心筋ミオシンはpH5.4付近で著しい加熱ゲル強度の増加を示すが、赤色筋ミオシンはこれを示さない。4.同様な現象は従来のモノマーミオシンをミオシンフィラメントに変換することによって惹起され、10^4dyn/cm^2以上の剛性率を示すゲル化反応はすべて、アクチンやCー蛋白質により阻害される。SH試薬はこのゲル形成に影響しない。5.以上3.、4.、の結果は加熱前のミオシンの形態変化と加熱ゲル強度との間に密接な関連があるらしいことを示唆している。各ミオシン分子種の頭部及び尾部断片を用いた研究により、分子種の異なるミオシンが示す熱ゲル化反応中の挙動は各ミオシンがそれぞれの条件下で示すフィラメント形成能の差異の反映であることが明らかにされた。6.環境pHを5.0以下にゆっくり下げると、被験ミオシン分子種はすべて強固な不可逆的ゲルを形成する。この現象も前記フィラメント形成とそれに対応して起こる変性反応を考えることによって統一的な解釈が可能となる。