著者
森田 道雄
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、新しい設計思想にもとづいた学校建築、とりわけその教室などの学習環境が、児童生徒にどのような影響を及ぼしているか、また、教員がその学習環境をどう理解し、活用できているか、を実証的に明らかにすることを目的とした。対象校は、いわゆる「教科教室制」をとる、中学校とした。生徒調査については、3カ年に一校ずつ綿密な予備調査をおこない、ほぼ共通のアンケート票にもとづき悉皆調査で実施した。対象数はA校約500、B校約200、C校約200である。その結果、おおむね生徒は新しい学校建築に好意的であり、その内容についても設計思想をかなりの程度反映するものであったと言える。しかし、同時にこの影響結果は、校舎設計によるものだけでなく、学校経営や教員集団の工夫と努力が反映している点も、明らかになっている。「教科教室制」、には、デメリットも指摘されてきたが、適切な学校経営(および教育行政の支援)があれば、そのメリットが生かされ、生徒にも受容されるという「結論」が得られた。教員の理解・活用の実態調査に関しては、学校建築専門誌から抽出した学校リストから郵送によるアンケートを実施した。送付数は120、回収学校数は43であった。回答者は主に校長、教頭、教務主任であった。これは、A3判2頁、質問数9、すべて記述式で回答を求めた。対象校はオープンスペースをもつ学校がほとんどであったが、教員が、従来とは異なる校舎において、設計思想への理解、長所短所の認識、経営上の工夫などを聞いた。丁寧な記述が多く、現場のナマの声を聞くことができた。また、教員異動の実態や教育活動をおこなう上での違和感の有無にも言及した回答もあった。学校の実際の姿が多様であり、訪問調査を実施しなかったので、調査結果において、個別的な実態が把握されたこと以上の、結論的な特徴を洗い出すには至らなかったといえる。しかし、こうした設計思想に対して、回答のあった学校では積極的に受容し、かつ、学習環境を生かした経営に努力している姿が把握できた。これらの調査結果は、「生徒の行動・意識に及ぼす教室環境設計の影響の研究報告書」に掲載した。