- 著者
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森賀 一惠
- 出版者
- 富山大学人文学部
- 雑誌
- 富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
- 巻号頁・発行日
- no.60, pp.41-49, 2014
『説文解字』に見える「亯」(五篇下亯部)は「亨」、「享」、「烹」の古字である。言い換えれば,「亨」、「享」、「烹」は同源である。「亯」字段注の「其形,薦神作亨,亦作享,飪物作亨,亦作烹,易之元亨,則皆作亨,皆今字也(その形,神に薦めるは亨に作り,亦た享字に作る。物を飪るは亨に作り,亦た烹に作る。易の元亨は則ち皆な亨に作る。皆な今字なり)」という記述によれば,「亨」は「享」、「烹」に通用するが,「享」、「烹」はそれぞれ「薦神」、「飪物」の意の專用字であるということになる。現代漢語(普通話)では「亨」はhēng 專用,「烹」はpēng 專用,「享」はxiǎng 專用と,はっきりと書き分けられているが,古くは「亨」は「享」、「烹」に通用していたようで,『廣韻』でも「亨」は脝(許庚切)小韻、磅(撫庚切)小韻、響(許兩切)小韻に見え,釋義はそれぞれ「通也」、「煑也」、「獻也,祭也,臨也,向也,歆也」となっており,「享」、「烹」は「亨」の或體字扱いである。『羣經音辨』(以下,『音辨』)の「亨」音義解釋と『經典釋文』(以下,『釋文』)の「亨」の注音状況については,概述したことがあるが,本稿では,同源の「享」「烹」も併せて『釋文』での注音状況を調査し,『音辨』の「亨」の音義解釋の妥当性を検討したい。