著者
椎葉 富美
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
人間文化研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.62-49, 2008-03

大半の文学作品においては、作者が描いたりもしくは創り出した人物が登場し、さまざまに表現されている。それらの表現の中で、特に〈人物の指し示し方〉に作者の創意工夫が表れていると考えた。その創意工夫にあたる部分、すなわち「作者の内面的・主観的特性を言語という手段の中で表わそうとする意識」を「表現意識」と名付け、作者がどのような表現意識を持っていたかを、〈人物の指し示し方〉を手がかりに解明しようとする。『土佐日記』『蜻蛉日記』『和泉式部日記』『更級日記』を対象として、登場する人物すべてについて考察した。従来の研究では、「君」「上」などの単一名詞(「1単語」と呼ぶ)のみを扱うことが多かったが、指し示し方を幅広く捉えることが必要であると考え、人物の指し示し方の範囲を「その人物を直接指し示している表現のすべて」とした。例えば、「あづまぢのみちのはてよりも猶おくつかたにおいいでたる」という修飾部分が、「人」に収斂されているような場合、修飾部分を切り離して考えるのではなく、一括した表現(「2単語以上」と呼ぶ)として考察の対象とする。四作品すべての「1単語」「2単語以上」の指し示し方を対照・検討した結果、四作品それぞれに固有の表現意識があることがうかがえた。この方法によって、あらゆる文学作品において、作者が自身もしくは指し示す人物を、どのように位置づけようとしたかを見ることができるのではないかと考えている。