著者
椎野 純一
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.109-134, 1984

積雲の降水形成過程を理解するために,第1部に示した力学過程と微物理学的過程との非線形相互作用を考慮した,暖かい海洋性積雲の軸対称モデルを用いて,雨滴の成長に関する数値シミュレーションを行った.第2部では,特に降水発生の重要な先駆現象の一つと考えられる,雲粒一小雨滴間のバイモーダル粒径分布形成のための微物理学的パラメータの臨界条件が調べられる.その目的に沿って,小規模積雲と背の高い発達した積雲について,雨滴の成長過程が詳しく調べられた.<br>その結果,バイモーダル粒径分布形成の一般的な臨界条件の存在することが強く示唆された.その条件とは,半径60&mu;程度の水滴がある程度の濃度で形成されることであるが,それは水滴の平均半径と分散によって一義的に表わされる.<br>力学的に活発なよく発達した積雲では,水蒸気の凝結率が高いために,雲粒は雲の"発達期"に既にこの臨界条件を満たす.その結果水滴は顕著な併合効果によって急激に成長し,降水物理過程と力学過程との非線形相互作用によって作られる強い下降流に伴って,突然,大粒の雨滴からなる強い降水をもたらす.しかしこの強い降水は継続時間が短く,かつ局地性を示す.一方,力学的に不活発な小規模積雲では,水蒸気の凝結率が小さいため雲粒の成長速度は遅く,臨界値到達直後のバイモーダル粒径分布は,"最盛期"の雲頂付近にようやく現われる.しかし雲の衰弱過程での水滴の平均半径が小さい(数濃度は逆に大きい)ために,雨滴のかなりの部分が蒸発する.その結果,地上の降水強度は弱く,雨滴の粒も小さく,また雲の降水能率(総降水量/総凝結水量)も発達した積雲に比べはるかに小さい.このように両者の降水形成過程には顕著な相異が認められる.<br>積雲モデルについては慎重な考察が加えられている.