著者
楊 洋 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.6_75-6_84, 2015-03-31 (Released:2015-07-31)
参考文献数
69

本稿は,中国湖南省江永県地域において,女性の間のみで共有された女書の文化的・社会的役割を明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果,以下の知見を得た。(1)女書の詩文は以下の5つに分類することができた:(A)契りを交わした血の繋がりのない女性の間の楽しみを描写したもの,(B)日常生活における消極的な思いを吐露したもの,(C)災難や不幸を乗り越える行事や儀礼を詠ったもの,(D)日常生活の厳しさを吐露したもの,(E)女徳に関する教育・教養を涵養したもの。(2)女性たちは,幼い頃から,煤や木片などの身の回りの材を道具として積極的に女書の習得・上達に勤しんだ。(3)姉妹の契りを交わした女性たちは,女書を通して,悲しみや喜びを吐露し励まし合い当該地域で生きる活力を獲得した。(4)女書は,当該地域のハレの日を知らしめる手段であった。(5)女書は,封建社会に生きる女性たちの道徳教育の媒体,ものづくりの図案の教本,家や世代を超えた文化伝承の媒体であった。
著者
楊 洋 植田 憲
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第58回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.116, 2011 (Released:2011-06-15)

「中国結」は、一本の紐を多様に編むことによってつくられる中国の伝統的な装飾である。近年、急速に進む近代化を要因として、消失が危惧されている生活文化のひとつである。 本研究は、「中国結」の意匠的特質を把握し、その維持・継承へ向けた指針を導出することを目的としたものである。中国における「結び」の文化を再確認・再認識することを念頭におきつつ、調査・研究を実施した。 古文書などの文献調査をはじめ、江西省南昌市における職人や地域住民への聞き取り調査、質問紙調査を行い、次の事柄を明らかにした。(1)「中国結」は、大きく、「基礎結」「変化結」「組合結」の三種類に分類することができる。(2)「中国結」は春秋戦国時代(前770~前476年)以前、紐を「結ぶ」ことは、実用性のみが求められていたが、春秋戦国時代から「結び」に装飾性がみられるようになった。唐・宋時代 (618~1279年)は、「中国結」の第一流行期であるといえ、椅子や傘、服などに、「中国結」が施された様子を確認することができる。「万字結び」「綬帯結び」「団錦結び」「酢草結び」の「基礎結」はこの時代に生み出された「中国結」である。明・清時 代になると、人びとは「基礎結」を発展させた「変化結」や「組合結」を創出し、さらに「結び」の意味の範囲は広く、種類は多様になった、独特の風格を特徴として、多く の民衆に受け入れられ、中国の伝統的な吉祥物として、全国に広がっていった。(3) 道教・仏教・儒教・陰陽五行説など伝統的思想から吉祥を求める「中国結」の寓意内包が充実するとともに、さらに一層、人びとに親しまれるようになった。また、「結び」に使われる特定の色彩の組み合わせがみられることから、色と「結び」付いた意味などが含まれている場合も多い。いつの時代にあっても幸せな人生を歩むために、人びとは「結ぶ」という行為のなかに、さまざまな心の機微を込めてきた。(4)気持ちを込める媒体としての「中国結」人びとは、自身のさまざまな感情や思惟を「結び」に託して豊かに表現した。 伝統的な「中国結」の意味は、今日、中国の人びとに十分に理解されているとはいえない状況にある。時間をかけて育まれた中国の「結び」の文化を、中国で暮らす人びとが再認識・再評価し、次の世代へ継承していくために、教育現場での活用、実用的な生活 用具に応用することが重要である。