著者
楠本 理加
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

DNA上の損傷はDNAポリメラーゼの進行を阻害し、不完全なDNA複製により、突然変異、がん化、老化、細胞死へとつながる。細胞はこれに対応するため、特殊なDNAポリメラーゼももっている。これらの特殊なDNAポリメラーゼはDNA損傷を鋳型にDNA合成を行うこと(損傷乗り越え複製)ができる。その中でもDNAポリメラーゼη(polη)は紫外線によって主に精製されるシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)というDNA損傷を鋳型こ正しい塩基を導入してDNA合成を行うことができる。また、polηに欠損を示す色素性乾皮症バリアント群患者は、高頻度で皮膚ガンを発症する。しかし、試験管内の反応速度論的解析によるとpolη単独での損傷のないDNAの複製は誤りがちであった。このことから、通常細胞内では忠実度の高いpolα、δ、εがDNA複製を行っており、損傷に遭遇した際、polηにスイッチすると考えられる。私は、損傷部位でのDNAポリメラーゼのスイッチ機構の解明を目的として、ゲルシフト法を用いて、polη単独でのDNA結合活性を調べた。Polηは、一本頬、二本鎖、プライマー/テンプレート型DNAのうち、プライマー/テンプレート型DNAに最も強く結合した。また、CPDをテンプレートに含むプライマー/テンプレート型DNAにも、CPDを含まないプライマー/テンプレート型DNAと同じ活性を示した。このことからpolηは、少なくとも単独ではDNA鎖中のCPDに積極的にアタックすることができないことがわかった。