著者
榊原 佳織
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、ミトコンドリアを選択的に処理するマイトファジーの分子機構解明を目指した。酵母を用いた遺伝学的手法によって、マイトファジー制御に関与する新規分子として、リン脂質PC合成に関与するリン脂質メチル基転移酵素(Opi3)を見いだした。マイトファジーが誘導されると、ミトコンドリアを処理する過程で隔離膜が形成されるが、その膜の形成にはリン脂質PEと結合するAtg8が必要である。我々はOpi3とAtg8との関係を調べ、リン脂質代謝が関与するマイトファジー制御機構の解明を試みた。これまで我々が行った解析では、opi3欠損細胞ではマイトファジー効率が極端に低下し、Atg8の過剰な蓄積を認めていた。そこで、opi3欠損細胞内におけるAtg8を精製し、質量分析よりAtg8に結合するリン脂質を同定した。その結果、opi3欠損細胞ではPEではなく、PC合成過程に産生される中間産物PMEがAtg8に結合していることを見いだした。次に、in vitro解析より、Atg8はPEと同様にPMEとも結合することが確認できた。通常、Atg8-PEはシステインプロテアーゼであるAtg4で切断され、Atg8がリサイクルされることが膜の形成に重要であることが知られているが、我々の解析によってAtg8-PMEはAtg4 による切断効率が極端に低下することが分かった。また、opi3欠損細胞内におけるAtg8の局在を観察したところ、マイトファジー誘導後に液胞に運ばれるべきAtg8が、液胞外に集積していることが認められた。以上の結果から、リン脂質メチル基転移酵素であるopi3の欠損によって、Atg8はPMEと結合することが分かった。PMEと結合したAtg8はAtg4による切断を受けにくくなり、リサイクルされないAtg8は蓄積し、隔離膜形成が効率よく行われず、マイトファジー効率が極端に低下したと考えられる。