著者
榎木 美樹
出版者
名古屋市立大学大学院人間文化研究科
雑誌
名古屋市立大学大学院人間文化研究科人間文化研究 = Studies in humanities and cultures (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
no.27, pp.203-236, 2017-01

「官・産・市民社会」によるパートナーシップ(官民連携)のインドにおけるグッド・プラクティスとして位置づけられるPEACE BY PPEACE プロジェクト(PBPプロジェクト)は、公的機関のJICA、民間企業のフェリシモ、インドのNGOチェトナが協働して企画・運営されたもので、オディシャ州カラハンディの綿花栽培農家に対し、有機農法への転換支援とその子弟への就学支援を行ってきた。日本企業の本来のコア・ビジネスを活かした戦略的CSR活動として、総合的農村開発の文脈に位置づけられる事業である。公的資金をほとんど投入せずに立ち上がり、6年間の累計基金総額が9,000万円規模であるという意味ではレバレッジ効果が非常に高い事例である。PBPプロジェクトのユニークさの一つは、取引を公正化するサプライチェーンの構築(公正貿易の要素)に加えて、消費者から集められた資金が基金として再度インド農民に還元されるという二重支援体制のプロジェクト・デザインにある。また、本来の基金活動から派生していく活動の多様性も特徴的である。さらに、事業地として最貧困地として名高いオディシャ州カラハンディが選定されたことで、支援ターゲットが重層化する意味あいを帯びることとなった。ストーリー性としても極めて精密につくり込まれている。他方で、汎用的なエッセンスの抽出とマニュアル化が期待されるグッド・プラクティスであるが、属人的な要素が強いことも特徴の一つである。