著者
構 大樹
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.64-76, 2015 (Released:2016-08-02)

本稿では〈宮沢賢治〉において「雨ニモマケズ」が中心化された諸要因のひとつを、総動員体制下の文学場に着目することで、同時代的な文学的価値の再編という観点から考察した。『詩歌翼賛』第二輯と火野葦平「美しき地図」からは、「雨ニモマケズ」の価値が《私事性》《素人性》によって生じていたことが看取される。これらは当時、「素人の創作」の流行を受け、文学場の評価軸となったものであった。また「報告文学」をはじめとする文学ジャンルでは、「素人の創作」に文学者が到達できない価値さえ与えられていた。こうした文学場の動向によって、「雨ニモマケズ」は特権的な文学的価値を帯び、やがて総動員体制下で〈宮沢賢治〉が高く称揚されるという事態を生起させたと考えられる。
著者
構 大樹
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.23-32, 2013-12-10 (Released:2018-12-18)

本稿は初期宮沢賢治受容に着目し、彼のイメージ生成と流通の様態を明らかにするものである。生前の賢治は、テクストの表現の革新性をもって評価されていた。しかし、それが『宮澤賢治全集』(文圃堂書店)の出版を前後に、賢治の〝生活〟を強調した解釈が目立つようになる。こうした評価の転換は、賢治をめぐる情報の蓄積はもちろんのこと、彼のイメージが流通した文学場の文脈が絡み合うことで生じた現象であった。