著者
槌谷 智子
出版者
国立音楽大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:02885492)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.81-92, 2014

パプアニューギニアに暮らすフォイでは、多くの昔話、寓話、神話、歴史的出来事が口頭で伝承されてきた。フォイの伝承には、結末で人間が動物や植物に変身するものが多いが、本論では人間が鳥に姿を変える伝承を集めた。伝承を通して、フォイにおける、善と悪、美と醜、強者と弱者への視点と価値観、社会的規範、超自然的力や存在に対する信仰、悲しみと怒りといった感性を知ることができる。伝承の中で、人間は動物に変身し、霊的存在は動物にも人間にも化身する。結末での動物への変身は、人間としての死と動物世界での再生が暗示されている。そこには絶対的価値の対立があるのではない。絶対的善や悪が存在するのではなく、美と醜、弱者と強者は時に逆転する。超自然的存在は現実世界に包含され、あるいは超自然的世界に人間は包含される。超自然的存在と人間は相互に交流し、相互に転換しうる。フォイにおいて人間と動物、現実世界と超自然的世界は断絶したものではなく、連続的なものである。