著者
新村 典康 宮腰 哲雄 小野寺 潤 樋口 哲夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.9, pp.724-729, 1995
被引用文献数
5

試料の形状を問わず,短時間で微量試料の分析が可能な熱分解GC-MS(PY-GC-MS)を用いて漆膜の分析を行った.今回測定に用いた熱分解法は,従来から用いられてきた瞬間熱分解法と比較的新しい手法である二段熱分解法を併用した.瞬間熱分解法は一段法と呼ばれ,混合熱分解クロマトグラムが得られる.これに対して二段熱分解法はポリマー中の揮発性成分と基質ポリマーの熱分解成分を二段階に分けて分析する手法である.従って漆膜のように複合的な天然塗膜の分析には有効な手法であると推定した.本研究では,まず一段法を用い,漆樹液から単離したゴム質,含窒素化合物,ウルシオール成分を分析し,各成分の検出に最適な加熱炉温度を検討した.次に二段法によって,漆膜を熱分解分析した.その結果,ウルシオールポリマー骨格成分の解析を容易に行うことができ,これまで不明であった漆膜の高次の重合機構を解明した.それにより,ウルシオールの塗膜形成時に側鎖一側鎖のC-Cカップリソグや芳香環と側鎖の間のC-Oカップリソグがかなり進行していることが明らかになった.