3 0 0 0 OA 漆と高分子

著者
宮腰 哲雄
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子 (ISSN:04541138)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.608-613, 2007-08-01 (Released:2011-10-14)
参考文献数
47

漆は植物から得られる塗料・接着剤である。漆の接着力を利用して漆の塗りものに金粉をまきつけた蒔絵は繊細で豪華であり,日本独特の漆芸技法でつくられた芸術品である。この蒔絵が16世紀後半にヨーロッパに輸出され王侯貴族を魅了しジャパンと呼ばれた。このような漆工芸品をヨーロッパでもつくるために塗料が開発され模造漆がつくられ,塗装技法についても大きな影響を与えるなど日本とヨーロッパの文化交流があった。
著者
新村 典康 宮腰 哲雄 小野寺 潤 樋口 哲夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.9, pp.724-729, 1995
被引用文献数
5

試料の形状を問わず,短時間で微量試料の分析が可能な熱分解GC-MS(PY-GC-MS)を用いて漆膜の分析を行った.今回測定に用いた熱分解法は,従来から用いられてきた瞬間熱分解法と比較的新しい手法である二段熱分解法を併用した.瞬間熱分解法は一段法と呼ばれ,混合熱分解クロマトグラムが得られる.これに対して二段熱分解法はポリマー中の揮発性成分と基質ポリマーの熱分解成分を二段階に分けて分析する手法である.従って漆膜のように複合的な天然塗膜の分析には有効な手法であると推定した.本研究では,まず一段法を用い,漆樹液から単離したゴム質,含窒素化合物,ウルシオール成分を分析し,各成分の検出に最適な加熱炉温度を検討した.次に二段法によって,漆膜を熱分解分析した.その結果,ウルシオールポリマー骨格成分の解析を容易に行うことができ,これまで不明であった漆膜の高次の重合機構を解明した.それにより,ウルシオールの塗膜形成時に側鎖一側鎖のC-Cカップリソグや芳香環と側鎖の間のC-Oカップリソグがかなり進行していることが明らかになった.
著者
宮腰 哲雄 陸 榕 石村 敬久 本多 貴之
出版者
合成樹脂工業協会
雑誌
ネットワークポリマー (ISSN:13420577)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.224-232, 2010-09-10 (Released:2014-03-31)
参考文献数
27
被引用文献数
2

漆は古くから用いられてきた天然塗料で,その塗膜は艶があり優雅で美しいことから器物の装飾や華飾に用いられてきた。ウルシノキは日本や中国に生育しており,それから得られる樹液が漆液である。漆液の乾燥硬化は特殊で,高湿度下でラッカーゼ酵素の酸化作用で進行する。そのため漆液を塗装した器物を乾燥するには特別の設備が必要で,湿度や温度の管理が重要になる。そのことから漆液が自然乾燥する促進法についていろいろ研究されているがまだ本質的な改質に至っていない。本稿では,当研究室で行った漆の改質法としてくろめ返し漆やハイブリッド漆の開発について述べる。また金コロイドを用いたワインレッド様漆塗料の開発,ナノ漆の開発と,それを用いたインクジェットプリンターよる蒔絵製作法の開発など工業塗装への応用研究について概説する。
著者
中井 俊一 佐藤 正教 武藤 龍一 宮腰 哲雄 本多 貴之 吉田 邦夫
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2013年度日本地球化学会第60回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.228, 2013 (Released:2013-08-31)

漆はウルシ属樹木であるウルシが分泌する樹液を脱塵,脱水などの処理をした後,空気にさらし,酸化酵素ラッカラーゼの働きにより硬化させ,塗料や接着剤として用いられてきた.ウルシ属の樹木は日本の他,中国,ベトナム,タイなどに自生している.現在,日本の漆工芸で使われている漆は大部分が中国,ベトナム産である.日本では縄文時代早期の遺跡から,漆塗の髪飾り,腕輪などが出土し,古い時期からの利用を示している.漆塗料の産地を決めることができれば,漆文化の起源や,時代による交易圏の変遷を考える手がかりになりうると予想できる.漆の主成分である有機化合物の分析により,日本産の漆をタイ,ベトナム産のものと区別することはできるが,日本産の漆を中国,韓国産のものと区別することはできない.そこで土壌の源岩の年代により変動する87Sr/86Sr同位体比を用いて漆の産地推定を行うことを検討してきた.
著者
永瀬 喜助 神谷 幸男 穂積 賢吾 宮腰 哲雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.2002, no.3, pp.377-384, 2002 (Released:2004-03-05)
参考文献数
14
被引用文献数
9

低湿度環境で自然乾燥性を持つ重合漆液の調製を目的として,反応容器中で生漆の反復「くろめ」1)を行った.すなわち簡易な実験用漆液重合装置を試作し,「くろめ」処理の繰り返しによって生漆1)を重合させ,漆液中のウルシオールの変化と低湿度環境(20–25 °C,45–55%RH)での乾燥性を調べた. 生漆は反復「くろめ」によって酵素酸化が進行し,この中に含まれるウルシオール単量体が減少する.また,この反応における反応容器の底面積と処理量および処理時間には,相関関係があることがわかり,その関係式を推測した.さらに,これらの変化に伴い,ヒドロキシ基価と抗酸化力が低下して側鎖の自動酸化が起こりやすくなり,低湿度環境での自然乾燥性が発現することを見いだした.
著者
北野 信彦 小檜山 一良 竜子 正彦 本多 貴之 宮腰 哲雄
雑誌
保存科学 = Science for conservation
巻号頁・発行日
no.53, pp.67-79, 2014-03-26

During excavation in the center of Kyoto (O-ike site) from 2003 to 2004, many fourlobed jars were excavated. These jars were used to stock imported urushi paint from Thailand or Cambodia from the end of the 16th to the first half of the 17th century. At the same site many traditional urushi paint tools produced in Japan during the Momoyama cultural period were also excavated. Results of elemental analysis by Py-GC/MS showed that the urushi paint was composed of Melanorrhoea usitata, Rhus vernicifera, Rhus succedanla,or their mixture. But there is no idea as to what objects,other than nambanstyle exported lacquerware,imported urushi paint was used for. Analyses of five lacquerware excavated at O-ike site showed that the urushi paint was compound of a mixture of Rhus vernicifera and Rhus succedanla. This result is material evidence that imported urushi paint was used on urushi objects in Japan.
著者
宮腰 哲雄 本多 貴之 吉田 邦夫 中井 俊一
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

歴史的な琉球漆器を科学分析したところ、日本や中国に生育するウルシの木の樹液やベトナムに生育するハゼノキ の樹液が利用され、これらはぞれぞれ単独に、あるいは混合して使われていた。琉球漆器からウルシオールが検出されたものは漆膜中のSr同位体比を分析したところ中国産の漆であることが分かった。また漆器の木質材料を分析したところ多くは中国産の杉「コウヨウザン」であることが分かった。このことから琉球の漆器作りは中国や東南アジアとの交流や交易の中で行なわれていたと考える。さらに琉球漆器の制作年代や加飾法の違いなどと漆の原材料の入手の関連を研究することが重要になってきた。