著者
樋口 岳雄
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の最終目標は、B_s中間子のJ/ψ中間子とΦ中間子とへの崩壊を利用し、時間に依存した解析手法によってΔГs/ГsやCP非対称パラメータを決定することである。データサンプルが高統計になった場合の検出器の応答のモデル化が非常な難題であることが判明し、研究計画期間内に最終目標に至ることはできなかったが、研究過程で検出器の応答の精密なモデル化に成功した。時間に依存した解析手法の研究では、B中間子の崩壊点の決定結果とその誤差をどう解釈するかが精密測定の要である。これは検出器の応答が正規分布を示さないため、誤差自体も信頼性の低い値となるからである。本研究において、崩壊点の決定結果に付随するX^2パラメータを修正した物理量の考案と導入によって、B_d中間子の崩壊モードによらずに崩壊点の決定誤差を訂正できるモデルを発見した。これは分岐比の小さい崩壊モードの検出器応答を、任意の崩壊モードを用いて決定できるメリットを意味する。このほか、B_d中間子の二次崩壊粒子のうち有限の寿命をもつ粒子が与える崩壊点決定への影響の新しい評価方法の提案や、ΔzからΔtを求める場合の運動学的により正しい計算方法の発見など、種々の新しい成功をおさめた。そのうえで、ここれらのモデル化と改良によって、Belle実験が収集した全Y(4S)共鳴のデータを用い、CP非対称パラメータをS=+0.668±0.023士0.013、A=+0.007±0.016±0.013とこれまでの最高精度で決定することに成功した(本結果は現在出版準備中である)。本研究のここまでの成果を基に、引き続き研究を続行する。