著者
樋口 輝雄
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.237-255, 2008-09-15
被引用文献数
1

明治8年にわが国で最初の歯科医術開業免状を授与された小幡英之助(1850-1909)は,洋法歯科医術の開祖と称揚されるが,その受験時の記録については明らかではなかった.国立公文書館には,明治初期に各府県史料編纂のため収集された諸記録の写しが来刊のまま収蔵されている。書写資料には,内務省に小幡への免状下付を上申した東京府からの文書とともに,試験を実施した東京医学校の成績書,小幡自身の東京府への試験出願書,履歴書などが収載されていた.これらの書類は『東京市史稿/市街篇第五十七』(東京都編纂昭和40年刊)に活字で翻文されているが,試験成績は「中の上」であったこと,免状下付の日付は明治8年10月2日であることが歴史資料の上からも確認できた.また最近になり新たに刊行された『福澤諭吉書翰集』には,明治天皇の歯科主治医に小幡英之助の任用を依頼する書簡が収録されている.これら各種文献資料の再検討(text critique)により,現在までの歴史書に描かれた小幡像は若干修正する必要があると思われる.