著者
横山 和泰 今井 弘一
出版者
一般社団法人 日本歯科理工学会
雑誌
歯科材料・器械 (ISSN:02865858)
巻号頁・発行日
vol.9, no.5, pp.703-719, 1990-09-25 (Released:2018-04-05)

最近の合着用セメントの細胞毒性をしらべるために, 市販の5種類18製品の市販品について, 細胞回復度試験法を活用してL-929細胞, HEp-2細胞, Gin-1細胞およびHp細胞を用いて実験を行った.その結果, リン酸亜鉛セメントおよびグラスアイオノマーセメントでは, 練和後3時間目および24時間目ともに, 4種類の細胞に対していずれもきわめて低い細胞回復度であった.カルボキシレートセメントでは, Hp細胞を除く3種の細胞に対して練和後の時間経過にかかわらず低い細胞回復度を示した.しかし, Hp細胞では練和後の時間経過でわずかながら細胞回復度の上昇をみた.グラスアイオノマーセメントでは, リン酸亜鉛セメントと同じく練和後の時間経過にかかわらず, きわめて低い細胞回復度であった.接着性レジンセメントでは5製品中の2製品で低い細胞回復度であったものの, 他の3製品は中等度の値を示した.酸化亜鉛ユージノール・EBAセメントではグラスアイオノマーセメントと同程度の低い細胞回復度であった.また, 各セメントの実験培養液のpH値は, リン酸亜鉛セメント, グラスアイオノマーセメントおよび酸化亜鉛ユージノール・EBAセメントでは弱酸性に傾き, カルボキシレートセメントではほとんど変化がなかった.一方, 接着性レジンセメンでは, 5製品で酸性傾向からアルカリ性傾向を示す製品まで認められた.さらに血清添加培養液中での溶解度は, グラスアイオノマーセメントで最も高かった.酸化亜鉛ユージノール・EBAセメントならびに接着性レジンセメント1製品がつぎに高く, カルボキシレートセメントでグラスアイオノマーセメントの約1/2の溶解度を示し, ついでリン酸亜鉛セメントと接着性レジンセメント1製品であった.他の接着性レジンセメント3製品ではほとんど溶解性が認められなかった.以上の結果から, 合着材の種類あるいは製品によって4種類の細胞に対する影響は大きく異なることが判明した.それには材料組成, 溶解度ならびに試験法の関与が考えられた.さらに合着材の細胞毒性をしらべる上で細胞回復度試験法の有用性も確認された.