著者
横川 知司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>1.はじめに 2021年7月現在,新型コロナウイルスは全世界的に流行し,社会的・経済的な影響を与え続けている。日本においても,感染拡大を防ぐために「新しい生活様式」という考え方が提唱され,多人数が集まるイベントの多くが制限された。伝統行事も例外ではなく,観光イベントでもある大規模な祭りなど,多くが中止になった。しかし地域で行われる小規模な伝統行事がどのように変容したのかは明らかでない。</p><p> そこで,本研究では小正月の神事の一つであるトンドに着目した。トンドは,竹などを組み立てて,やぐらをつくり,正月飾りなどを焚き上げる伝統行事である。名称は異なるものの,共通の祭りが全国各地で広く行われていることから,今後の日本全体の伝統行事の維持を考えるうえで適した事例であると考える。</p><p></p><p>2.対象地域 本研究では,東広島市西条町を対象地域とした。選定理由として, 町内のほとんどの地域でトンドが実施されていること,調査の前年(2020年)に発表者らが悉皆的に調査を行っており,コロナウイルス流行の前後を比較できることが挙げられる。西条町は,農業地域と都市地域の両方が認められ,さらに都市地域縁辺の農業地域では,宅地化が進行し,旧来の住民と新住民が居住する混住地域も見られる。都市・混住・農業地域で催されるトンドを比較することで,コロナ禍に伴う変容の地域的な差異を検討する。なお地域区分については,国土数値情報と国勢調査のデータに基づき,農業地域のうち,人口が増加する地域を混住地域とみなし,それ以外を農業地域とした。</p><p></p><p>3.トンドの変容 2020年に実施された95のトンドのうち,2021年も行われたのは28であった。地域別にみると,都市地域では開催場所である小学校を借りられないなど,開催場所を確保できなかったことが影響し,ほぼすべてが中止になった。自分たちで開催場所を確保できる混住・農業地域でも約7割が中止になった。運営主体と参加人数からみると,住民団体など参加人数が多いトンドほど中止になることが多く,個人など参加人数が少数のトンドは開催されていた。コロナ禍で開催を決定した理由としては,1)正月飾りを焚き上げるため,2)年はじめに顔を合わせておいた方が良いと考えたため,3)無病息災を祈るため,4)中止にするという意見がそもそも出なかったなどが挙げられる。</p><p> 行事内容の変化としては,飲食の制限・禁止が確認された。汁物など共用飲食物の提供は行われず,代わりに弁当やペットボトル飲料など個別のものが増加した。トンドの形状については,少人数・短時間で建てられるように工夫したため,簡素化・縮小化が進んだ。参加人数は,帰省を控えた親族や参加をとりやめた地域住民・外部参加者もいるため,全体的に減少していた。</p><p> 一方で,地区で中止になったため,個人で代替開催したトンドが混住地域では4ヶ所,農業地域では9ヶ所でみられた。開催理由としては,1)正月飾りを焚き上げたい,2)家族に年男年女がいるため,3)子供がいるため,4)昔から続いてきたものなのでやっておかないと気になるなどが確認された。</p><p></p><p>4.おわりに 都市地域など,開催場所を自前で確保できないトンドは中止になり,自前の開催場所をもつ混住・農業地域でも,参加人数が多いトンドは中止になった。開催したトンドを見る限り,親睦の目的が失われ,正月飾りを焚き上げるなどの神事の目的が表出したと考えられる。伝統行事の維持には,場所の確保が最低条件であり, コロナ禍においては参加人数が少数である方が開催されることが確認できた。また,トンドの開催理由から開催者が伝統行事の本来的な意義を認識していることも重要であるといえる。</p>