著者
今泉 敏 横田 則夫 出口 利定 細井 裕司 新美 成二
出版者
広島県立保健福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

話し相手の心を理解するコミュニケーション機能を支える脳機構とその発達を研究した。まず、話し言葉から話し相手の心を理解するテスト(音声課題)を作成し、小、中学生、成人合計339名を対象にその能力の発達を調査した。文章による比喩・皮肉文理解課題(文章課題)も行った。その結果、言語的意味と話者の感情とが一致しない皮肉音声やからかい音声に対して、他者の心を理解する能力が小学生から中学生に掛けて有意に上昇し発達するものの、中学生になってもなお成人の成績には達しないことが分かった。特に、からかい音声から話者の発話意図を理解する能力は中学生でも成人より有意に低いものだった。低年齢児の能力を評価するためには音声課題の方が文章課題より適していることが示された。さらに、健常成人24名(男性12名,女性12名)を対象に,感情(「喜び」と「憎しみ」)を込めた音声から,話者の気持ちを判断する場合(感情課題)と語の言語的意味を判断する場合(言語課題)の脳活動をfMRIで解析した。その結果,女性に比較して男性の反応時間は有意に長く、正答率も低かった。脳の賦活パターンには両課題とも性による違いが観測された。感情課題では,心の理論や社会的・倫理的推論で重要な役割を果たす前頭内側部(FMC)が男性でのみ有意に賦活した。左右上側頭回や左下前頭回の賦活も男性のほうが高かった。話し言葉から相手の心を理解する脳機能には性差があり,男性では推論作業が重要であることが示唆された。以上の結果に基づいて、音声から話し相手の心を理解するコミュニケーション脳機能を計測する装置を開発した。この装置によって、言語理解障害、感情認知障害、心の理解障害と、それらの機能の発達障害を検査できることが示された。